2020年当初から国内で始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行とともにインフルエンザの流行は影を潜め、20-21および21-22シーズンは明らかな流行はありませんでした。しかし2022-23年シーズンには再び流行が見られ、COVID-19との同時流行も生じました。

季節性インフルエンザは、どの年代でも罹る病気ですが、特に幼児では脳症、高齢者では肺炎など、重篤な合併症を引き起こし時に死に至ることもあることから、インフルエンザへの対策を怠ることなく、新しい知識を備えておくことは大切です。ここでは主に季節性インフルエンザについて解説し、最後に新型コロナウイルス感染症の話をします。

インフルエンザによる死亡者数の年次推移を示す棒グラフ。死亡者の大半は65歳以上の高齢者で、近年は増加傾向にある

インフルエンザは普通の「かぜ」とは違う

普通のかぜよりも、症状と感染力が際だって強い

インフルエンザは、普通のいわゆる「かぜ」(かぜ症候群、普通感冒)とは異なります。インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、感染すると高熱をはじめさまざまな症状が全身に起こり、感染力も非常に強いという特徴があって、普通の「かぜ」とは大きく異なります。

普通のかぜ(かぜ症候群)とインフルエンザの違い

かぜ症候群インフルエンザ
発症時の症状徐々に悪化急激に悪化
発熱なし。あっても37度程度38度以上のことが多い
悪寒(寒気)軽い強い
症状・経過上気道炎症状が中心全身症状が強い
合併症少ない肺炎などが起こり得る
発生状況散発的流行する

流行するインフルエンザウイルスには複数のタイプがある

インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型に分けられますが、このうちC型は軽い症状で済むことが多く、臨床的に問題とされていません。

A型 A型には香港型(H3N2型)とパンデミック型(H1N1pdm型)があり、そのシーズンによって流行する型は異なりますが、症状が強くなりやすいので、早い段階で診断され適切な治療を受けることが必要です。感染して血液中に抗体ができても、ウイルスが変異※することにより次のシーズンに再び感染することは珍しくありません。

B型 B型ウイルスは高齢者等では軽く済むこともありますが、シーズンによっては大流行することがあります。A型と同様に、十分な対策が必要です。

※変異とは、遺伝子が変化することで、ウイルスの構造が微妙に変わってしまうことです。

症状と合併症について

突然の発熱に続き、全身に多くの症状があらわれる

インフルエンザの症状の特徴は、突然の発熱です。典型的な場合、38度以上になります。高熱に続いて鼻水や鼻づまり、喉のどの痛みなどの「上気道炎じょうきどうえん症状」、せきなどの「呼吸器症状」と、全身倦怠けんたい感、頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢、食欲不振などの「全身症状」があらわれます。

これら発熱や全身症状は、からだの免疫機能がウイルスと戦っている結果、あらわれる症状です。免疫のこのような働きのおかげで、発病から1週間でウイルスが排除され、症状が軽くなります。ただ、せきや鼻水がしばらく長引くこともあります。

高齢者と子ども、慢性疾患のある人は要注意!

高齢者 高齢者は一般的に免疫機能が弱いため、病気が重症化したり長引くこともあり、また、しっかり治る前に新たな病気「合併症」が起きてしまうことも少なくありません。最も多い合併症は細菌性肺炎ですが、まれにインフルエンザウイルス自体が直接、肺炎を起こすこともあります。

子ども 特に乳幼児の場合、抗体が全くない状態で初感染として発病することがあるため、症状は強くなる傾向にあります。また頻度は非常に低いものの「脳症」が起きることもあります。脳症では生命が危ぶまれますし、回復しても障害が残ってしまうことがあります。

持病のある人や妊婦 ぜん息、心臓病、糖尿病など、慢性の病気がある人や妊娠中の女性がインフルエンザにかかると、重症化しやすい傾向があるので、より注意してください。

このように、インフルエンザという病気は、人によってはとても怖い病気になり得ます。しかもインフルエンザには強い感染力があります。たとえあなたは短期間で治ったとしても、周囲の高齢者や子どもなどの「インフルエンザ弱者」にうつしてしまう可能性もあります。インフルエンザは本人だけの問題ではないということを知っておいてください。

次のようなときは合併症の可能性があります。再度、速やかに受診してください

肺炎の症状 高熱が3〜4日たっても下がらない/いったん下がった熱がぶり返した/呼吸が苦しい

脳症の症状 からだの痙攣けいれんがみられた/異常な行動をした/意識がもうろうとしている

回復の近道はウイルスをできるだけ早く減らすこと

迅速診断で的確な診断と治療が可能に

インフルエンザの診断には、A型かB型かまでわかる迅速診断法が普及しています。綿棒で鼻や喉の奥をぬぐったり、鼻をかんだりして検体を採取し、それにウイルスに対する抗体を反応させて診断します。検査キットによって違いますが、多くの場合、検査時間は5分程度です。以前は、発症してすぐだとウイルス量が少なく、陰性(インフルエンザではない)と出てしまうといわれていましたが、最近は検査キットの精度が向上し、発症してすぐ(6時間以内)でも陽性と診断できることが多いです。

抗インフルエンザ薬で重症化を防ぎ早期改善

治療には、抗インフルエンザ薬が使われます。抗インフルエンザ薬を使用する目的は、ウイルスの増殖を抑えてその量を減らすことです。ウイルスを早く減らすことで、熱などのつらい症状は短期間で改善し、楽になります。また、病状が悪化しにくく、呼吸器合併症(肺炎など)のリスク低下が期待できます。なお、抗インフルエンザ薬は発病後の早期(48時間以内)に使うことで効果が期待されます。ですからインフルエンザのシーズン中は、からだの不調を感じたら、なるべく早く診察を受けてください。

抗インフルエンザ薬の使用目的は…

ウイルスの増殖を抑えてその量を減らすことで、症状を早く改善することです。重症化を防ぐことも期待できます。

すると 発熱やだるさなどのつらい症状が早く治まります

そうすれば 病状が悪化しにくく、肺炎などのリスク低下が期待できます

抗インフルエンザ薬が効く仕組み

ウイルスは自分だけでは生きられず、他の生きている細胞に入り込んで増殖します。抗インフルエンザ薬は、細胞に入り込んだウイルスが増殖するのを邪魔してウイルスの数を減らし、効果を発揮します。

ノイラミニダーゼ阻害薬 ノイラミニダーゼは、ウイルスが細胞内に入り込んで増殖したあと、その細胞から離れて別の細胞に移動するときに働くタンパク質です。そのノイラミニダーゼの働きを邪魔することで、ウイルスが増えるのを防ぐのがこの薬です。A型にもB型にも有効です。内服薬、吸入薬、点滴薬の3種類があります。内服薬と吸入薬には1日2回、5日間使用するものや1回だけ吸入する薬があります。1回だけ吸入する薬にはネブライザで吸入できるタイプもあります。点滴薬は通常1回15分以上の点滴で治療が終了しますが、患者さんの症状によっては連日点滴することもあります。

キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 ウイルスは、遺伝子情報からmRNA(メッセンジャーRNA)を合成し、増殖に必要なタンパク質をつくりだします。キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬は、このmRNAの合成を阻止することでインフルエンザウイルスの増殖を抑えます。1回だけ内服する薬でA型にもB型にも有効です。

主な抗インフルエンザ薬のはたらき。キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬はウイルスが細胞の中で増殖するのを防ぎ、ノイラミニダーゼ阻害薬は増殖したウイルスが細胞から離れるのを邪魔することを示した図

その他の抗インフルエンザ薬 「ポリメラーゼ阻害薬」は、細胞内でウイルスの遺伝子が増えるのを邪魔する薬で、他の薬が効かないような新型インフルエンザが流行した場合に使用が許可されています。また、以前はA型インフルエンザに「M2タンパク阻害薬」という薬が用いられていましたが、現在ではほとんど使われていません。

※抗インフルエンザ薬の治療を受けた後にも、症状の回復がみられない場合は、医師に相談してください。

水分とミネラルを十分に補給しましょう

抗インフルエンザ薬が登場してインフルエンザの治療がかなり変化しましたが、従来から行われてきた対症療法もやはり大切です。例えば、からだを温かく安静に保つことは、免疫力を高めるのに有効です。また、水分をこまめにとることは、熱のせいで脱水状態になるのを防ぐために、とても大事です。体内のイオンバランスを考慮すると、水やお茶よりも、経口電解質補給液の方が適しています。

インフルエンザに「かからない・うつさない」ために

11月中にワクチン接種を

インフルエンザにかからないための一番よい方法は、予防のためのワクチン接種を受けることです。特に高齢者や子ども、持病のある方、およびそのご家族は、できるだけ受けてください。ワクチン接種を受けてから抗体ができて効果があらわれるまで2〜3週間かかりますから、インフルエンザシーズンに入る前に、できれば11月中には受けておきましょう。

感染予防・感染時の注意点

インフルエンザの感染経路は、主に飛沫ひまつ感染や接触感染です。時に飛沫核感染(空気感染)の可能性もあります。マスクをし、手をこまめに洗いましょう。またインフルエンザウイルスは低温・乾燥に強いと考えられるので、部屋を暖かくし加湿すると、感染を防ぐのに役立ちます。そして流行期間中は、できれば人込みを避けるようにしましょう。

もしインフルエンザにかかってしまったら、「せきエチケット」を守り、周囲の人にうつさない気遣いを忘れないようにしましょう。熱があるときはもちろん、熱が下がったあとも2日間程度は、からだからウイルスが排出されていますので、外出や人との接触は控えてください。

せきエチケット
  • マスクをきちんと着用する。
  • せき・くしゃみの際はティッシュなどで口と鼻を押さえ、他の人から顔をそむけ2m以上離れる。
  • 鼻水やたんが付いたティッシュは、すぐに蓋ふた付きのゴミ箱に捨てる。

引き続き注意が必要な鳥インフルエンザ

鳥インフルエンザは、従来からのH5N1と、新たに2013年に中国で発生したH7N9が注目されています。いずれもいまだヒトからヒトへ容易に感染するような変異はしていないものの、強い病原性を保ったまま世界中に広がる可能性を秘めており、致死率が高いことを考えると、季節性インフルエンザより脅威であると考えられています。

現在、世界中の政府や研究者が、抑止のための対策を築きつつあります。仮にそのような事態になった場合、ワクチン接種の優先順位、発熱時の受診の仕方、家族の対応などが政府から発表されますので、それに従い落ち着いて行動してください。現在使用されている抗インフルエンザ薬の中には、鳥インフルエンザウイルスの増殖を抑制する効果が期待されている薬もあります。

インフルエンザQ&A

「熱は下げてはいけない」って本当ですか?

発熱はからだがウイルスと戦っている証拠といえます。むやみに熱を下げるのはよくありませんが、高熱のために体力が激しく消耗している場合などには、効果がマイルドなアセトアミノフェンという解熱薬が処方されます。15歳未満ではライ症候群やインフルエンザ脳症を起こしやすくすることがあるので、アスピリンやその他の解熱薬をむやみに使わないようにしてください。

ワクチン接種を受けてもインフルエンザにかかる人もいるそうですが…

インフルエンザワクチンは、そのシーズンに流行するであろうウイルスのタイプを予測して作られます。予測が外れたり、ウイルスに変異が生じたりすると、有効率が下がります。ですから、「ワクチン接種を受ければ絶対安心」とは言い切れないのです。

しかし、日本臨床内科医会が毎年行っている研究結果からは、ワクチン接種を受けることでインフルエンザにかかりにくくなる、あるいは重症化を予防すると考えられます。

ワクチン接種の有無別にみたインフルエンザの発生率を年代別に示した二つの棒グラフ。若い年代を中心に、ワクチン接種を受けたグループのほうが発生率が低い
ワクチン接種の有無別にみたインフルエンザの発生率 ワクチン接種を受けた人と受けなかった人の二つのグループに分け、そのシーズン中にインフルエンザにかかった人の比率(発生率)を年代別に比較したものです。*印は、ワクチンを接種していたグループで明らかにインフルエンザ発生率が低かった年代を示します。〔日本臨床内科医会編『インフルエンザ診療マニュアル(第16版)』より引用〕
ワクチンの副反応が心配です

現在使用されているのは精製された不活化ワクチンで、重篤な副反応はほとんどありません。日本臨床内科医会の調査でも、明らかな発熱はごくわずかです。なお、注射した場所が赤く腫れるといったことはよくありますが、通常は数日で治ります。

新型コロナウイルス感染症情報

2019年12月に中国武漢で初めて確認された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)は、世界的なパンデミックを引き起こしました。2020年1月に国内での患者の発生が確認され、第1波のピークとされる4月11日には622人の患者発生が確認され、その後、2023年4月までに第8波まで確認されています。感染症法上の分類は当初2類に指定され、全数報告が求められましたが、2023年5月8日以降5類に移行され、定点からの報告による流行把握に変わりました。

SARS-CoV-2は感染が継続する過程で変異が起こり、様々な変異株が出現しています。代表的な変異株として、2023年7月までに、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株の5種類があります。今後、どのような変異株が出現するかについては監視の継続が必要とされています。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ33『インフルエンザ』(2022年1月発行)をもとに、専門班による改訂原稿(2023年10月)を反映して作成しています。