「食事療法を始めましょう」と言われたら…
「食事療法が必要です」と医師から言われたとき、多くの方が、厳しい制限をイメージして不安を感じるようです。食事療法を、病人のための「特殊な食事」だと考えると、その戸惑いはより強くなります。
ところが、食事療法で最も大切なことは、病気の種類により多少異なるものの、「バランスよく適量をとる」という、ごく基本的なことなのです。
この小冊子は、食事療法のあらましを解説した入門ガイド。あなたの不安や戸惑いの解消にお役立てください。
病気によって違う食事療法
食事療法は大事です。毎日のことだからです。
単に「食事療法」といっても、その内容は病気の種類によって異なります。まず最初に、あなたに必要な食事療法をしっかり理解しておきましょう。
❶食習慣が関係している病気の食事療法
食事の量や栄養バランスの乱れが病気に関係している肥満症、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、骨粗しょう症などは、食事療法が重要です。
この場合の食事療法は「本来あるべき姿の食習慣に戻す」ことが大原則。つまり、病気でない人も含めてだれもが実践すべき「健康的な食習慣=健康食」にすることです。それを実践するだけで、病状がかなりよくなることも少なくありません。
あなたがこの❶の病気に該当する場合、まず最初に次の囲みを見て、現在の食習慣をチェックしてください。
- 欠食が多い…1日2食だと食べすぎや間食を招く。1日の合計摂取エネルギーが同じでも太りやすい。
- 満腹にならないと食べた気がしない…「腹八分」は江戸の昔からの健康法。基本中の基本。
- 夕食の量が多い。夜食をとることが多い…睡眠中はエネルギーが消費されずに貯蓄に回り、太りやすい。
- 野菜ぎらい…野菜は低エネルギーで食物繊維の宝庫。ほとんどの食事療法に適した食材(例外もあり、後述)。
- 脂肪の多い料理が好き…揚げ物などの脂肪が多い料理はエネルギーが高く、肥満になりやすくなる。
- 食べるのが早い…早く食べるほど、食べる量が多くなり太りやすい。
- 外食の機会が多い…外食は一般的に脂肪や塩分が多い。
- 間食をしたり清涼飲料水をよく飲む…栄養バランスが崩れ、しかも摂取エネルギー過剰になりやすい。
- アルコール飲料をたくさん飲む…食事のバランスが崩れ、摂取エネルギー過剰になりやすい。
❷臓器をいたわる食事療法(とくに腎臓病の場合)
例えば腎臓の働きが低下してきた場合、腎臓の負担を軽くして、臓器をいたわる食事療法が必要です。この場合は病状に応じて、特定の栄養素の摂取量を加減します。ときには❶のケースに勧められる「健康食」が❷には適さないこともあります。
糖尿病で腎臓が悪くなった場合などには、❶と❷の両面からの食事療法が必要です。
ひと目でわかる食事と栄養の基礎知識
食事療法早見表
| 病名 | エネルギー | 炭水化物 | たんぱく質 | 脂質 | ビタミン | ミネラル | 食物繊維 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 肥満(症) | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | Na↓ | ↑ | |
| 糖尿病 | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | B群↑ | Na↓ | ↑ |
| 高血圧 | ↓ | Na↓ K↑ | ↑ | ||||
| 脂質異常症(高脂血症) | |||||||
| 高LDLコレステロール血症 | ↓ | ↓ | ↑ | ||||
| 高トリグリセライド(中性脂肪)血症 | ↓ | ↓ | ↓ | ↑ | |||
| 骨粗しょう症 | ↑ | DとK↑ | Ca↑ P↓ | ||||
| 腎臓病 | ↑ | ↑ | ↓ | ↑ | KとPとNa↓ |
下向きの矢印:減らす
上向きの矢印:病状などに応じて、増やすことを考慮する
元素記号について:Na…ナトリウム(塩分) K…カリウム Ca…カルシウム P…リン
エネルギー
すべての動物は食事からエネルギーを得て、それを利用し生きています。食べ物から取り入れるエネルギーが、からだを動かして消費するエネルギーより多ければ太り、少なければやせます。食品のエネルギーの単位が、カロリーです。
健康食の目安;成人は1日に、男性2,000kcal以上、女性は1,800kcal前後で、体格や活動量、年齢などで加減します。
炭水化物
体内で消化吸収されると大部分は血糖になり、エネルギー源として使われる主要な栄養素です。
エネルギー量;1gあたり約4kcal。
多く含む食品;ごはんやパン、いも類、めん類、かぼちゃなど。
たんぱく質
エネルギー源であるほか、筋肉や血液など、からだを作る材料として使われます。
エネルギー量;1gあたり約4kcal。
多く含む食品;肉の赤身や魚、卵、大豆製品など。
脂質
エネルギー源となるほか、ホルモンや細胞膜を作る材料として利用されます。
エネルギー量;1gあたり約9kcal(炭水化物やたんぱく質の2倍以上)。
多く含む食品;調理油やバター、肉の脂身などはほとんどが脂肪です。
ビタミン、ミネラル
いろいろな種類のビタミンやミネラルがあり、からだの諸機能を整えるのに欠かせない、それぞれ個別の役割をもっています。
エネルギー量;ほぼ0kcal。
多く含む食品;各食品に微量ずつ含まれています。
食物繊維
からだには吸収されませんが、腸の働きを助けたり、過剰な栄養素の吸収を抑えたりします。
エネルギー量;ほぼ0kcal。
多く含む食品;野菜や海藻。穀類(精製度の低い玄米など)やいも類も食物繊維が多いのですが、炭水化物やエネルギーも高い点に配慮が必要です。
「健康食」のための理想的なバランスとは
食事療法の基本である「健康食」にするには、1日の摂取エネルギーのうち、50%強を炭水化物、約25%をたんぱく質、残り20~25%を脂質からとり入れ、食物繊維を20~25g摂取します。そして、体内で合成できないビタミンやミネラル、必須アミノ酸などが偏らないように、なるべく多くの食品を少しずつとることが理想です。
※前述の「食事療法早見表」もご参照ください。
病気別 食事療法ガイド
肥満(症) 摂取エネルギーを減らして「健康食」に
食べる量の総量を減らすことが最も重要です。とくに、エネルギーが高い脂質のとりすぎや清涼飲料水の飲みすぎに注意します。前述の「食事療法を始める前のチェックリスト」を確実に実践し、「健康食」をめざしましょう。
- 肉料理の際は、最初に湯通ししたり、網焼きにして、肉の脂を落とす。フッ素樹脂加工のフライパンを使うと調理油が必要ない。
- サラダには低エネルギーのドレッシングやマヨネーズを。「ノンオイル」と書かれていても、意外にエネルギーが高いことがあるので、ラベルを見て確認する。
- 小腹が減ったらプチトマトやキュウリ、低エネルギーに調整されているお菓子を食べる。食事の間隔が長くあくときは途中で軽く食べたほうが、次の食事の食べすぎを防げることが多い。
- 調理に低エネルギーの調味料などを適宜利用する。
- たくさん食べたいメニューは、夕食ではなく昼食に。
糖尿病 量とバランスに配慮し「健康食」を心掛ける
その人にあった摂取エネルギー量の中で、すべての栄養素を過不足なく食べるのが糖尿病の食事療法。いわば「究極の健康食」です。ただし肥満のために血糖値が高くなっている場合は、減量をめざして摂取エネルギー量を減らすことが大切です。
野菜のかわりに果物…× 果物は糖分たっぷりで野菜とは別。血糖値や中性脂肪値が高いときは適量を守る。
野菜はたっぷり食べるとよい…△ 多くの方には○だが、腎臓病やワルファリン(抗凝固薬)を服用中の方は注意が必要。カリウムが多い青汁(ケール)、ビタミンKが多いクロレラなどは要注意。
海藻はエネルギーがないのでいくらでもOK…△ 多くの方には○だが、甲状腺の病気の患者さんは、ヨウ素の多いコンブなどに注意。また、塩分が多い点にも配慮を。
サプリメントでより健康に…△ 大量にとるのはからだにとって不自然。薬との飲みあわせの心配もあるので、最初に医師に相談を。
酒は百薬の長…△ アルコールはエネルギーばかりで栄養がない「空のエネルギー」。医師の指示を守ること。
これら以外にも、テレビで「○○はからだによい」という情報が流れると、そればかり食べる人が出てきます。そういった「健康情報」を鵜呑みにせず、まずは医師や栄養士、薬剤師に相談してください。
高血圧 「健康食」をめざし、塩分摂取を控える
ナトリウム(塩分)をとりすぎると浸透圧の関係で血液量が増加したり、血管を収縮させるホルモンの分泌が増えて血圧が高くなります。逆にカリウムは血圧を下げるように働きます。もちろん「健康食」の基本を守ることも大切です。
減塩の方法;次の囲みを参照。
カリウムの多い食品;野菜やいも類、豆類、干した果物など。
- しょうゆやソースは、かけずにつける(調味料は量を確認して使う)。
- 塩やしょうゆのかわりに、レモンや香辛料、酢、香味野菜を。
- 減塩しょうゆや減塩みそなどを利用。
- 梅干しや漬物はなるべく控える。
- めん類の汁は残す。みそ汁は具だくさんに。
- 揚げ物や焼き物の香ばしさを生かす。
脂質異常症 脂質に注意しながら「健康食」をめざす
「健康食」の原則を守り、摂取エネルギー量を適正にしつつ、脂質をとりすぎないようにします。また、高LDLコレステロール血症の場合は、コレステロール量を制限します。高中性脂肪血症の場合は炭水化物、とくに砂糖、そしてアルコールの摂取量に注意します。
コレステロールの多い食品;卵の黄身やレバー、ウナギ、魚の卵、イカ、バターなど。
骨粗しょう症 カルシウムやビタミンDを十分に
骨の原料であるカルシウムや、そのカルシウムの吸収を助けるビタミンDを十分とり、また、骨の形成を助けるビタミンKも不足しないようにします。
カルシウムの多い食品;牛乳や乳製品、小魚、大豆製品など。
ビタミンDの多い食品;さけやさば、うなぎなど、脂身の多い魚。
ビタミンKの多い食品;納豆や緑黄色野菜。
腎臓病 適切なたんぱく摂取で腎臓の負担を軽減
たんぱく質は体内で利用されたあと、腎臓で処理されます。このため腎臓の負担を考え、たんぱく質の摂取量を少し減らすことがあります(病状によって異なります)。
たんぱく質の摂取量を減らすときは、それによって不足する摂取エネルギーを、炭水化物や脂質を上手に利用して補い、体内のたんぱく質(おもに筋肉)が減らないようにします。
また腎臓の働きが低下しているとカリウムやリンが体内に溜まりやすいので、それらの摂取量を減らします。さらに腎臓の保護には血圧が低いほうがよく、そのため減塩も重要です。
カリウムの多い食品;高血圧の項(前述)を参照。
カリウムやリンの減らし方;たんぱく質の多い食品は一般にカリウムやリンも多く含むので、低たんぱく食をしっかり続けることが、カリウム・リンの過剰摂取予防になります。また野菜などに多く含まれるカリウムは、大量の水にさらしたり、ゆでこぼしながら煮ると減らせます。なお、お茶やコーヒーが濃すぎると、カリウムのとりすぎになることもあります。
減塩の方法;高血圧の項(前述)を参照。
生活習慣病の増加とともに、今ではその食事療法に適した食品が数多く販売されています。エネルギー調整食品、低たんぱく食品、あるいは、噛む力が低下した方向けの介護食など。しかし販売量自体はまだ少ないため、コンビニなどでは売っていないこともあります。その場合は通販が便利です。医療機関に置いてあるカタログで調べたり、医師や栄養士、調剤薬局の薬剤師などにアドバイスを受けて、上手に利用しましょう。
この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ40『食事療法ハンドブック』(2008年2月発行)をもとに作成しています。