だれにとっても食事はすべての基本

介護をすることは大変です。トイレや入浴の介助はもちろん、歩行の補助など、やるべきことはたくさんあります。しかも介護の必要性は突然発生することが多く、それだけに、介護をする方の負担は大きく感じられます。

なかでも食事については、食べやすさに配慮して調理しなければなりませんし、食事中の介助も必要となり、とても手間がかかります。そのため、しばしばヘルパーさんに任せきりになったり、少し工夫すればふつうの食事でも食べられるのにミキサー食や流動食にしていたり、ときにはチューブを使った経管栄養などに安易に頼っているようなケースもみられます。

そこで、まず最初に、介護を必要とされる方にとって、食事がどのような意味をもっているのかを少し考えてみたいと思います。

食事は介護を受ける方にとり数少ない楽しみの一つ

介護を受ける方の暮らしを自分の身に置き換えて想像してみてください。健康な人にとっては単なるエネルギーの補給手段になっていることが多い「食事」も、介護を受ける方にとっては生活のなかの数少ない楽しみの一つです。

介護の予防のためにも食べることが大切

介護を受ける方はあまり身体を動かさないこともあり、食事の量が少なくなりがちです。介護するほうも、つい「食べられないなら仕方がない」と考えてしまいます。しかし、食べないことでさらに体力が低下したり、ほかの病気や脱水を招いたりして、より多くの介護・介助が必要になってしまうことがあります。そうならないためにも、食事をしっかり食べてもらうことが大切です。食事を口から食べることで免疫力が高まり、体力を維持することができます。

介護を受ける方の体力を支えるポイントは…

介護を受ける方は、複数の薬を服用していることが少なくありません。なかには薬を飲むために無理に食べてもらうようなケースもみられます。しかし忘れてはならないのは、病気を治すには薬も必要ですが、最も大切なのは食事をとることです。食事をしっかり食べてもらうには、介護を受ける方への愛情、そして介護食作りの知識と技術「食べさせ術」が必要です。

介護食作りに必要な基礎知識

介護食の調理や食事の介助をするにあたって、次のようなことを知っておく必要があります。

①噛む力、飲み込む力が弱い

歯が少ないことや筋力が低下しているために、物を噛んだり飲み込んだりする力が弱くなっています。また、食べた物が喉につかえたり、食道ではなく気道に入ってしまう「誤嚥ごえん」を起こしやすくなります。

②味覚や嗅覚の衰え

味覚や嗅覚が鈍くなるために、おいしさを感じられずに食が細くなったり、以前よりも濃い味付けを求めたりします。

③唾液の分泌が少ない

唾液が減ることで誤嚥が起きやすくなったり、舌苔ぜったい(舌の表面に細菌などが苔のように付着している状態)ができて食事がまずくなってしまうことがあります。

④喉の渇きを感じにくい

食事の量が減るために水分摂取量が不足ぎみになりますが、高齢者では渇中枢が鈍くなるので喉の渇きを自覚しないことが多く、脱水状態になりやすくなります。

⑤身体の障害の影響

身体障害や理解力の低下のために食べるのをあきらめてしまう、視力低下や視野障害(見える範囲が狭いこと)のため食卓のおかずに気が付かず食べる物が偏ってしまう、といったことも起こります。

では、このような方においしい食事を安全に食べていただくためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。介護食の作り方に話を進めていきましょう。

高齢者向けの食事
食品別にみる調理のコツ

ごはん 水加減によって硬さを調節します。ふつうのごはんとおかゆを一度に作るには、炊飯器の中に耐熱性の器を置き、その器におかゆの分量の米と水を入れて炊きます。

パン 水分が少ないのでスープなどと一緒に食べたり調理します。

麺 食べやすい長さに切って調理し、フォークで食べるとよいでしょう。

魚介類 高齢者が好み、介護食に使いやすい食品です。とくに白身魚は身がほぐれやすく、介護食に適しています。赤身の魚は煮ると固くなるので、刺身にするなど、調理法をひと工夫しましょう。

肉類 適度に脂肪がある肉のほうがやわらかく調理できます。ただし赤身の肉でも、じっくり煮込んだり圧力鍋を使えばやわらかくできます。加熱の前に肉をたたいたり、酢やパイナップルの汁などに10分程度漬けても、やわらかくなります。

野菜 サラダは食べにくいので、細かくつぶします(しかし、刻むとかえって誤嚥しやすくなります)。圧力鍋を使うと、かたちを崩さずにやわらかく仕上げられます。

果物 酸味の強い果物はむせやすい傾向があります。

卵・乳製品 卵や乳製品は栄養価が高いので、介護食にぜひ取り入れたい食材です。調節法をアレンジしていろいろな献立に応用しましょう。

介護食の作り方

「介護食=刻み食・ミキサー食」ではありません

かつて介護食というと、なんでも細かく刻んだりミキサーでペースト状にしていた時期がありました。しかしそのように調理されたものは、口の中に残りかえって食べにくいことや、また食欲を減退させてしまうことが問題となって、今ではできるだけふつうの食事に近いかたちで、見た目のおいしさも重視した介護食を作るように変わってきています。

どのくらい手を加えればよいのでしょうか?

最適な介護食を作るのは、まず、介護を受ける方の状態を把握することからスタートします。ここでは、どのようなときにどのような介護食を作ればよいのか、一つの目安を次にあげておきます。

介護食の五つのステージ

次の表から、あてはまる項目の多いステージが、目安となる介護食のステージです。

ステージ身体の状況食事の内容
ステージ1食欲はふつうにある
ほとんどの食品を食べられる
家族と同じ食事
ステージ2硬いものは噛めない
油の多いものが食べられない
手が不自由
一口サイズに崩れる程度に柔らかく煮込む
おにぎりなどの有形食
ステージ3軽度の咀嚼困難
あまり噛まずに飲み込んでしまう
軽い食欲不振
やわらかいものはつぶす
細かくすりつぶす
ステージ4食欲不振
軽度の嚥下障害
軽度の脱水症状
咀嚼困難
流動食または半流動食(プリン状のもの)
ステージ5嚥下障害
脱水症状
経管栄養などからの離脱のための食事訓練
ゼリー食
水分補給食

「臨床栄養別冊 おいしいやさしい介護食」(田中弥生・宗像伸子著、医歯薬出版発行)より引用

調理法の例
〔ごはん〕〔クリームシチュー〕
ふっくらとやわらかく炊いたごはん硬い具(切り刻んで混ぜる食材)は、崩れる程度に煮込む
全がゆか、少しゆるめのおかゆ煮込みながら具をつぶす
全がゆをミキサーにかける(必要に応じて増粘剤ぞうねんざい(後述)を使う)ミキサーにかける(必要に応じて増粘剤を使う)
ミキサーにかけたものに介護食用寒天やゼラチンを入れて固めるミキサーにかけたものに介護食用寒天やゼラチンを入れて固める

介護食用寒天 温めても崩れないなど、介護食作りに便利なように改良された寒天です。

『臨床栄養別冊 おいしいやさしい介護食』(田中弥生・宗像伸子著、医歯薬出版発行)より一部改編し引用

食事の介助

こんなことも気に掛けてください

その方に適した歯科治療 ぐらついている歯はないか、入れ歯が合っているか、こまめに確認しましょう。歯が1本だけ残っているような場合、残しておくよりも抜歯したほうがむしろ食べやすいこともあります。

水分補給 脱水予防のため、水分をこまめにとってもらってください。水がむせやすいのであれば、ゼリー状に調理した食べ物を食べてもらうようにします。

誤嚥や喉につまりやすい食べ物 硬いもの(肉類や干物など)、細かい具が入っている液体(みそ汁など)、パンなどのパサパサしたもの、餅のようにネバネバしたもの、ノリやワカメなどの口の中に張り付きやすいもの。こうした食材は、調理や介助のときに少し注意が必要です。

ご家族で食卓を囲んで ご家族と同じ食卓で食べるのと一人で食べるのとでは、おいしさや楽しさが全く異なります。食卓への移動が無理なら、せめて相互に顔が見える位置で食べるようにしたいものです。

食べる前の準備

麻痺がある場合は、食べこぼしてもよいようにエプロンをしましょう。ご自身で食べるのなら、箸は木製の四角いタイプがよいでしょう。動けない方の場合、食事の前にトイレを済ませてください。また、口をあけてもらい、舌苔があればよく取り除き、口の中をきれいにしましょう。

食べるときの介助

食事を介助するときは、食べ物を少量ずつ口に運び、飲み込むまで待ちます。噛んでいる間は誤嚥防止のため、話しかけないようにします。嚥下障害のない方であれば、食事の最初に汁ものを飲んでもらうと、口の中が湿って食事をおいしく食べられます。

食卓には、すべての料理が視野に入るように配置し、届きにくい位置のお皿は食事中に手前に動かしてください。

食べるときの姿勢は、顎あごが上を向かないようにします。介助する人は、食べる方の顎が上がらないように注意してください。片麻痺へんまひがあり寝たまま食べる場合は頭を30度以上あげて、麻痺のあるほうを上にし横向きになってもらいます。

食べ終ってから

歯磨きや入れ歯の清掃をしてください。また、食べた物が逆流しないように、できれば食後2時間程度は頭を少なくとも30度以上、上げておいたほうがよいでしょう。

「食べない、食べられない」の原因は…

健康な人でも食欲のない日があるように、介護を受ける方も日によって食欲が異なります。もともと食事量が少ない方は、食欲がない日は食べ物をほとんど口にしないときもあります。そんなときは、かかりつけ医や訪問看護師、訪問管理栄養士※1に相談しましょう。

ひょっとしたら介護食の作り方に問題があるのかもしれません。旬の食材を使って季節感を出すなどの工夫をしてみましょう。咀嚼しづらいためにミキサーをかける場合にも、増粘剤※2やゼリー・寒天などで、ミキサーにかける前のかたちにできるだけ整えて、一品ごとに盛り付けてあげましょう。また、食事をとらないときは水分をこまめにとってもらうようにしてください。

※1訪問管理栄養士:管理栄養士がご自宅に出向いて栄養相談にのる在宅訪問栄養指導という制度があります。かかりつけ医や訪問看護師、ケアマネージャーに相談してください。

※2増粘剤などを適宜に利用:料理に混ぜるだけで、簡単に粘り気をつけたりゼリー状に固めたりできる製品が、介護ショップや薬局などで販売されています。ただし、使用量を誤ると飲み込みにくくなることもあるので、介護を受ける方の状態にあわせて加減してください。

よりよい介護と負担の軽減のために

便利なお助けサービスを利用しましょう

最後に、介護食作りと食事の介助の負担の軽減に利用できる便利な製品やサービスを紹介します。

介護食器 手が不自由な方でも使いやすい箸やフォーク、口元からこぼれにくいスプーン、滑り止めのついたお皿など、多数の介護食器があります。

宅配介護食 調理済みの冷凍された介護食を配達してもらえるサービスもあります。レンジで加熱するだけで、味や栄養価、見栄えが整った介護食を手軽に楽しんでもらえます。

パンフレット

この小冊子では紹介しきれなかった介護食作りのポイントもあります。以下の資料をご覧になってみてください。

本:臨床栄養別冊 おいしいやさしい介護食
(田中弥生・宗像伸子著、医歯薬出版発行)

介護食・宅配食の情報:http://www.taiheifamilyset.com/

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ26『介護食のはなし』(2010年2月発行)をもとに作成しています。