2008年に大きく様変わりした健診制度。なにがなんのために変わったのでしょうか。

生活習慣病を「本気」で防ぐ!

以前から、高血圧や糖尿病などの生活習慣病(成人病)を早期発見する健診制度があり、生活習慣病の予防を目指す「健康日本21」などの施策がとられてきました。しかし生活習慣病は減るどころか増え続け、それによる合併症を起こしてしまう人も増え続けています。

今までは、せっかく健診で異常が見付かっても、「医療機関を受診してください」と書かれた結果が届くだけのことが多く、そのまま放置してしまう人が少なくなかったからです。

新しい健診制度「特定健診・保健指導」は違います。異常が見付かった人に対しては、保険者(健康保険組合などのこと)が、生活習慣改善の指導・支援に乗り出してきます。

なぜそこまでするのかというと、このような対策の効果が他の保険者と比較され、実績が良くない場合、その保険者の金銭的負担が増える仕組みが導入されたことが関係しています(後述)。保険者は今、みなさんの健康を本気マジで守ろうとしています。

生活習慣病を「根こそぎ」防ぐ!

特定健診・保健指導のもう一つの特徴は、複数の生活習慣病を一括して予防することを目指している点です。

以前の健診制度は、血圧や血糖値などの異常をそれぞれ別のものとして評価する方法でした。しかしこれらの検査値の異常は、内臓脂肪型肥満によるメタボリック シンドローム(以下、メタボと省略)から起こることが多いので、内臓脂肪を落とすことによって、そうした複数の異常を同時に改善できるわけです。特定健診・保健指導は正にそれを狙ったもので、糖尿病などの生活習慣病を「根こそぎ」防ぎ、最終的には、心筋梗塞や脳梗塞などの血管病(動脈硬化性の病気)を防ぐ仕組みです。

メタボの診断基準

運動不足や食べ過ぎ飲み過ぎが続いた結果、内臓の周囲に過剰に脂肪が溜まり、その影響で血圧や血糖値、中性脂肪値などの複数の検査値が異常を示すのがメタボです。検査値異常の程度を個別にみればどれも軽症なのにもかかわらず、動脈硬化が速く進み、心筋梗塞や脳梗塞の危険が高くなります。詳しくはこのシリーズの35「メタボリックシンドロームって、なに?」をご覧ください。

メタボの診断基準
内臓脂肪型肥満ウエストサイズが男性85cm以上、女性90cm以上
検査値次の3項目のうち2項目以上が該当する
ア.中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dL以上かHDL-コレステロール40mg/dL未満
イ.収縮期血圧130mmHg以上か拡張期血圧85mmHg以上
ウ.空腹時血糖値110mg/dL以上
診断内臓脂肪型肥満に加え、上記の検査値の基準にも該当するとき、メタボリックシンドローム(メタボ)
人は血管とともに老いる 〜メタボと血管病の関係〜

「人は血管とともに老いる」と言われます。血管の老化は二十歳ごろからすでに始まっていますが、その影響が自覚症状となって現れるのは、多くの場合、老年期に差し掛かるころからです。その間、何十年という長い年月をかけて、少しずつ血管が年老いていき、やがて心筋梗塞や脳卒中などの血管病を起こします。

加齢(年をとること)とともに誰でも血管の老化が進むのですが、その進行を早めてしまう要素がいくつかあります。重要なものの一つは喫煙です。喫煙以外にも、高血圧や脂質異常症(高脂血症)、糖尿病などの生活習慣病が挙げられます。

老化した血管を若返らせることはできません。血管病は予防が大切です。だからこそ禁煙運動や、生活習慣病を早期発見するための住民健診などの対策が、古くから続けられてきたのです。しかし、生活習慣病の多くが内臓脂肪の過剰な蓄積によるメタボを経て起こることが解明されました。血管病の発病につながる流れの出だしが、内臓脂肪の過剰蓄積です。

出だしの一歩を踏み出さないようにすれば、血管病の発病・進行も抑制できます。そのように効率良く血管病を防ぐための環境をみなさんに提供するシステムが、特定健診・保健指導です。

生活習慣をチェック・改善する絶好のチャンス!

特定健診・保健指導では、生活習慣改善が必要な人を選び出し、その人のやる気や理解力、生活スタイルにあわせてアドバイスをしてくれます。結果が届くだけだった以前の方法と、大きな違いです。被保険者(健康保険などの加入者。みなさん個人のこと)にとって、ご自身の健康状態をチェックし生活習慣を改善する、絶好のチャンスとなります。

それでは「特定健診・保健指導」の流れをQ&Aで解説します。まずは「特定健診」についてです。

特定健診について

Q. 特定健診を受けるのはどんな人?

A.40〜74歳の保険加入者(被保険者)ほぼ全員に、年に一度「受診券」が届けられます。有効期限内に指定の場所で特定健診を受けてください。

Q. どんな検査を受けるの?

A.質問表による生活習慣等のチェック、身体測定、血圧測定、血液検査、検尿、医師の診察があります。今までとの大きな変更点は、内臓脂肪の過剰蓄積を見付けるために、腹囲の計測が加わったことです。

質問表

服薬情況 高血圧などの生活習慣病とすでに診断され、薬が処方されている場合は、特定保健指導ではなく、主治医のもとでの治療が優先されます。

喫煙習慣 喫煙歴がある人は、特定保健指導の対象に選ばれやすくなります。喫煙は「健康の大敵」で、血管病の重大な危険因子でもあるからです。

生活習慣改善の意思 生活習慣改善の必要性をご自身でも実感しているのか否かなどが質問され、その答えによって特定保健指導の方法が変わります。

身体測定

腹囲 男性は85cm以上、女性は90cm以上だと、内臓脂肪が過剰に溜まっていると考えられ、メタボの可能性があります。

特定健診の検査項目と判定値
検査項目保健指導判定値受診勧奨判定値単位関連する病気
収縮期血圧130以上140以上mmHg高血圧症
拡張期血圧85以上90以上mmHg
トリグリセライド(中性脂肪)150以上300以上mg/dL脂質異常症(高脂血症)
HDLコレステロール39以下34以下mg/dL
LDLコレステロール120以上140以上mg/dL
空腹時血糖値100以上126以上mg/dL糖尿病
HbA1c5.2以上6.1以上%
AST(GOT)31以上51以上IU/L肝臓病
ALT(GPT)31以上51以上IU/L
γ-GT(γ-GTP)51以上101以上IU/L
尿糖陽性陽性—糖尿病
尿蛋白陽性陽性—腎臓病

身長・体重 体重(kg)を身長(m)の二乗で割ってBMI(体格指数)を計算します。BMIが25以上の場合は肥満に該当します。

血圧測定

上記の身体測定の結果、メタボが疑われたり肥満と判定された方で、さらに血圧が「保健指導判定値」(前述の表を参照)を上回っていると、特定保健指導の対象になります。

血液検査

トリグリセライド(中性脂肪) 血清脂質(血液中の脂肪分)の一種で、数値が高い場合、脂質異常症と診断されます。メタボでも高くなります。

生活習慣病のステージメタボ予備群メタボ生活習慣病の発病合併症の発病
血管病のステージ血管の老化が速まり始める血管の老化現象の加速血流悪化。血管が詰まる・破裂する
自覚症状無症状ほとんど無症状身体の障害、または死亡
従来の健診制度—早期発見して受診勧奨受診勧奨
特定健診・保健指導早期発見して保健指導保健指導または受診勧奨受診勧奨

生活習慣病の発病がさらに進むと、細小血管障害(人工透析が必要になる。失明)や、大血管障害(動脈硬化)による狭心症・心筋梗塞、脳卒中といった合併症を起こします。

HDLコレステロール 血清脂質の一種、善玉コレステロールのことです。数値が低い場合、脂質異常症と診断されます。メタボでも低くなります。

LDLコレステロール 悪玉コレステロールのことです。数値が高い場合、脂質異常症と診断されます。メタボとは直接的には関係ありませんが、太い血管の老化現象「動脈硬化」の強い危険因子です。

血糖値、HbA1c HbA1cは過去2カ月間ぐらいの血糖値の平均を表す検査値です。血糖値かHbA1cのどちらか一方の検査が行われます。数値が高い場合、糖尿病と診断されます。メタボでも高くなります。

AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GT(γ-GTP) 肝臓の働きを調べる検査です。数値が高い場合、脂肪肝、アルコールやウイルスによる肝炎などが考えられます。

検尿

尿糖 陽性の場合、糖尿病が強く疑われます。

尿蛋白 陽性の場合、腎臓病が強く疑われます。

医師による診察

上記の検査に加え、医師が診察して必要だと判断した場合、より詳しい検査(心電図検査や眼底検査など)を受けていただきます。

Q. その検査でなにがわかるの?

A.以前の健診と同様に、高血圧や糖尿病、脂質異常症などを見付けられるだけでなく、それら生活習慣病のもとになる、メタボやメタボ予備群(内臓脂肪過剰蓄積)を見付けられます。つまり、血管病をより早期の段階でとらえることができます。

心筋梗塞・脳卒中といった血管病が発病するまでの一連の流れ(前述の表を参照)の中、あなたが今どこまで来ているのか見当がつき、必要な対策を立てるのに役立ちます。

Q. 結果はどのように判断されるの?

A.特定健診・保健指導の特徴は、生活習慣改善の必要性が差し迫っている人ほど、より本格的な指導がなされるという点です。そのため、特定健診の結果を次の表のような方法で判断し、健診を受けた方を三つにグループ分けします。また、検査の結果によって医療機関を受診する必要性を医師が判断します。

保健指導対象者の選定とグループ分け

ステップ1 内臓脂肪蓄積に着目してリスクを判定
腹囲男性 85cm以上 女性 90cm以上➡(1)
腹囲男性 85cm未満 女性 90cm未満 かつ BMI 25以上➡(2)
ステップ2 リスクの判定項目
①血糖空腹時血糖値100mg/dL以上、または HbA1c 5.2%以上、または薬剤治療を受けている場合(問診票より)
②脂質トリグリセライド(中性脂肪)150mg/dL以上、または HDLコレステロール40mg/dL未満、または薬剤治療を受けている場合(問診票より)
③血圧収縮期血圧130mmHg以上、または拡張期血圧85mmHg以上、または薬剤治療を受けている場合(問診票より)
④問診票喫煙歴あり(①から③のリスクがひとつ以上の場合にのみカウント)
ステップ3 ステップ1・2から保健指導対象者をグループ分け
ステップ1が(1)の場合で、ステップ2の①〜④のリスクの数が2コ以上あると積極的支援レベル
ステップ1が(1)の場合で、リスクが1コだと動機づけ支援レベル
ステップ1が(1)の場合で、リスクが0なら情報提供レベル
ステップ1が(2)の場合で、ステップ2の①〜④のリスクの数が3コ以上あると積極的支援レベル
ステップ1が(2)の場合で、リスクが1コまたは2コだと動機づけ支援レベル
ステップ1が(2)の場合で、リスクが0なら情報提供レベル

特定保健指導について

Q. 特定保健指導を受けるのはどんな人?

A.特定健診を受けた方全員に「情報提供」として、生活習慣改善・維持に役立つ情報が届けられます。さらに「動機付け支援」または「積極的支援」レベルの人(前述)には、保健指導の「利用券」が届きます。利用券が届いたら、専門スタッフの指導を受け生活習慣を改善する必要があるという意味です。有効期限内に指定の場所を訪ねてください。

Q. どんなことを指導されるの?

A.動機付け支援では、専門スタッフとの面接で、現在の生活習慣を続けるデメリット、それを改善するメリットなどの説明を受け、具体的な目標を決めます。指導を受ける回数は原則1回で、所要時間はスタッフと一対一の場合20分以上、ほかの人とグループで指導を受ける場合は80分以上と決まっています。

積極的支援では、動機付け支援に加え、スタッフと話し合って決めた目標を目指し、その後3カ月以上にわたって継続的な支援が続けられます。あなたにあった減量法なども教えてもらえることでしょう。

具体的な目標の例
  • 腹囲と体重を毎日測る!
  • 1日7,000歩以上歩く!
  • 夜食は週3回まで!
  • 付き合い酒は月3回まで!

あなたの目標はスタッフと相談して決めましょう(例えば「6カ月後に体重−3kg、腹囲−3cm」など)。

Q. 「積極的支援」の内容は?

A.最初の面接で具体的な行動計画を決めたあとは、面接のほか電話やFAX、メールなどで、計画をきちんと実行しているかどうかが随時チェックされます。例えば、腹囲・体重を測っているか、1日何歩歩いているか、野菜を食べるようにしているか、などを聞かれます。実行できていない場合、どうすれば良いか相談すれば、良いアドバイスを受けられます。

Q. 効果はどのように判断するの?

A.保健指導の初日(面接を受けた日)から6カ月以上過ぎた時点で、目標の達成度を指導スタッフに連絡し、プログラム終了です。たとえ目標を達成できていなくても、罰則はないのでご安心を。がっかりせず、引き続きヘルスアップをめざしましょう。

そのほかのQ&A

Q. 健診の受診券や保健指導の利用券を無視して放っておいた場合、罰則などがあるのでしょうか?

A.75歳以上が対象の保険制度「後期高齢者広域医療連合」の運営資金の4割は、75歳未満を対象としている保険者(健保組合)が負担します。2013年以降、その負担金が、特定健診・保健指導の実施率やメタボの該当者数・減少率を参考に、保険者ごとに加算・減算されます。特定健診・保健指導がうまくいっていない保険者は負担金額が増え、その結果、サービスが悪くなる可能性もあります。なお、被保険者(健保の加入者。みなさん個人)に対する罰則はありません。

Q. 保健指導を受けているのに生活習慣を改めなかったり、連絡や訪問を拒否したらどうなりますか?

A.あなたの健康を心配し、指導スタッフや保険者がたびたび連絡してくることでしょう。それでも無視していると、翌年も優先的に保健指導の対象に選ばれるかもしれません。あるいは逆に、相手にされなくなるかもしれません。前のQ&Aでお答えしたように、保険者は費用対効果を考えて対象者を選ばないと、保険者自体の財政に悪影響が及ぶからです。

Q. 特定健診の対象が75歳未満、保健指導の積極的支援の対象が65歳未満とされているのはなぜですか?

A.特定健診は、内臓脂肪の過剰蓄積→メタボ→生活習慣病の発病→血管の老化→血管病の発病→身体の障害→死、と続く、何十年もの流れを早期の段階でストップすることを狙っている仕組みです。つまり、今後の経過が長い若い方のほうがその効果が高いわけで、高齢者は相対的にメリットが少ないと考えられます。高齢者ではむしろ食事量不足による栄養不良を防いだり、好きな生活スタイルを続けることで「生きがい」を持ち続けていただくことのほうが大切なことが多いため、年齢的な上限が設けられました。

Q. 空腹時血糖の保健指導判定値が糖尿病やメタボの診断基準よりも厳しい理由は?

A.空腹時血糖値100mg/dL以上だと、将来的な糖尿病の発病リスクが高くなるという知見に基づくものです。なお、海外では糖尿病やメタボの診断のための空腹時血糖の基準値を100mg/dLとしている国もあります。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ43『特定健診・保健指導って、なに?』(2008年9月発行)をもとに作成しています。