なぜ、肩がこるのでしょうか?
「責任が重く肩にのしかかる」「思わず肩に力が入る」「ようやく肩の荷が降りた」などなど、日本語には肩にまつわる表現がいろいろあります。その多くは、精神的な負担を言い表わしたものです。ストレス社会と呼ばれる今、みなさん、さぞかし肩に負担をかけながら生活しているのでしょう。この冊子を読んでいるあなたも、肩をもんだりたたいたり首をぐるぐる回しながら「どうしてこんなにこるのだろう」と悩ましく思っているのではないでしょうか。
頭と腕の重みが肩に集中してかかる
なぜ肩がこるのか? 詳しくは後でお話ししますが、その理由の一つは、重たい頭を支えている首や二本の腕の重さが肩に集中するためだと考えられています。つまり、ふつうに暮らしているだけでも、肩はこりやすい場所だということです。実際に厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、女性が訴える自覚症状の第1位が肩こりで、男性でも第2位に挙げられています。
ただし、骨や神経の異常による“病気の症状としての肩こり”もあります。ですから軽視はできません。とくに、次に挙げる症状は、すぐにでも治療が必要な“危険な肩こり”の可能性があります。
こんなときはすぐに受診!
- 運動したとき(例えば階段を上るとき)に肩が痛む……狭心症の可能性があります。
- 手のしびれや麻痺を伴う……首や肩の神経・血管が圧迫されているときの症状です。
- 首や肩を動かしていないのに痛む……骨の異常や内臓の病気かもしれません。
- 徐々に症状がひどくなる……進行性の病気が考えられます。例えば、がんなどです。
肩こりの原因
①首や肩の骨・筋肉に原因があるケース
椎間板ヘルニア…首からお尻の辺りまでつながっている脊椎(いわゆる背骨)は長い一本の骨ではなく、椎骨というブロック状の骨がいくつも重なってできています。椎骨と椎骨の間には椎間板という柔らかい軟骨があり、クッションの役割をしています。
その椎間板の中身がずれて飛び出した状態が椎間板ヘルニアです。頸椎(首の骨)の中の神経が圧迫されて、痛みやこり、しびれなどが現れます。比較的若い方に多い病気です。
頸椎症、後縦靭帯骨化症…椎間板や椎骨が変形して神経を圧迫するのが頸椎症です。後縦靭帯骨化症は、一つ一つブロックになっている椎骨を後ろ側からつないでいる柔らかいテープ状の組織「後縦靭帯」が硬く大きくなって、神経を圧迫する病気です。どちらも加齢の影響が大きい病気で、首や肩の痛み、手のしびれの原因です。病状が軽ければ肩こりだけのこともあります。
肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)…加齢などによる肩関節の骨や軟骨、筋肉などのわずかな変化が重なり慢性的に軽い炎症が起きていて、肩が痛んで動かしにくくなる状態です。いわゆる四十肩・五十肩は、これに相当すると考えられます。
胸郭出口症候群…首と肩の境目に位置し、血管や神経が通っている部分「胸郭出口」が狭いために血管や神経が障害されている状態です。腕を上げると痛み、しびれやこりを伴うことがあります。比較的若い女性に多い傾向があります。
その他…スポーツで首・肩の骨や筋肉を傷めたときや、首の骨のがんや感染症で肩がこることもあります。
②首や肩とは別の所に原因があるケース
内臓の病気や高血圧…心臓や肺の病気、あるいは高血圧で、肩こりが起きることがあります。
眼精疲労…近視や乱視、老眼などの矯正が適切でないときや白内障などで物が見づらいとき、目を近づける不自然な姿勢をとりがちなため、肩がこります。
その他…顎の関節の不調や耳鼻科関連の病気で肩こりが続くこともありますし、中年女性では更年期障害の症状として肩こりがよく起こります。また、心理的なストレスが肩こりとなって現れることもあります。
③原因がはっきりしないケース:本態性肩こり
検査を受けて①や②で挙げた肩こりの原因がみつかれば、それを治療すればよいのですが、実際にはこれらに該当しない肩こりが大半を占めます。
仕事や家事をしているときの姿勢がよくないのかもしれません。今の検査技術ではわからないほどのわずかな異常、例えば骨や軟骨の変形や血流の減少、筋力の低下やこわばりなどがあって、その影響なのかもしれません。
このような原因がわからないケースを、医学的には「本態性肩こり」と呼んでいます。
肩こりの治療・対処の流れ
①危険な肩こりの可能性があればすぐに検査
肩こりが気になったとき、最初に注意しなければいけないことは、前述の囲み記事で挙げた“危険な肩こり”を見逃さないことです。かかりつけ医を受診してこれらの可能性があると判断された場合、より専門的な検査・治療を進めます。
②肩こりの原因探しと対症療法を続ける
①以外の肩こりであれば、時間をかけて原因を探します。なにかの病気が背後にあるのかもしれませんし、日常の生活に原因が隠れているかもしれません。医療機関で検査を受けるだけでなく、ご自身でもふだんの姿勢をチェックしたり、視力が悪くなっていないか確認してみましょう。
検査で病気がみつかった場合は、もちろんそれを治療します。ただし、いろいろ検査をしても結局異常が見つからず「本態性肩こり」と判断されることも少なくありません。原因と考えられていた病気を治療しても肩こりが続くこともあります。そのような場合は、こりに対する「対症療法」を行います。対症療法については後述します。
③首や肩の骨の病気による肩こりでは手術も検討
首や肩の骨の病気がみつかった場合は、対症療法でなく原因療法として、手術も選択肢になります。しかし肩こりの原因は非常に幅広いので、手術で確実にこりがとれるとは限りません。また手術にはわずかながら危険も伴います。ですから通常は対症療法でしばらく様子をみます。症状が改善しないときに病状や年齢などを考え、手術すべきか否かを検討します。
がんこなこりの原因は?
あるとき肩がこっていることに気付いて以来、なかなかこりがとれなくなってしまった──。みなさんもこんな経験があるのではないでしょうか。その原因は“肩こりの悪循環”のせいかもしれません。
肩こりで筋肉が緊張して固くなっていると血液の流れが悪くなります。するとそこに痛みを引き起こす疲労物質がたまり、そのためさらに、痛みやこりがひどくなるという繰り返しが、肩こりの悪循環です。また、いったん痛みが生じると痛みに対してより敏感になってしまうことも、がんこな肩こりの原因と考えられます。鎮痛薬による対症療法は、いま起きている症状を鎮めるだけでなく、こりの連鎖を遮断して、新たなこりの発生を抑える効果もあります。
肩こりの対症療法
自分でできる肩こり解消法
ふだんの姿勢や生活環境をチェック!
肩こりの原因が仕事中の姿勢の悪さにあると考えられるケースは少なくありません。とくにパソコンを操作するときの姿勢をチェックしてみましょう。また、ショルダーバッグは片方の肩に負担が集まるので、なるべく両肩で背負うタイプのバッグを使いましょう。枕の高さを変えてみるのもよいでしょう。
肩こり体操を続けましょう!
イラストのような肩こり体操を日課に続けましょう。肩こりが解消されるだけでなく、徐々に筋肉がついて、こりにくい肩に変わっていきます。
運動を始める前に
- 手足にしびれがある
- 首が動かせない
→ まずは主治医に相談を
運動中には
- 筋肉の張りを感じる程度の強さで、ゆっくりと
- 回数を増やすより、毎日続けることが大事
- 運動中に痛みが強まったら中止する
リラックス体操
頭を左に傾け左肩を上げる。そのまま、左肩を後ろから前に10回まわし、続けて前から後ろにも10回まわす。右側も同様に、左右2回ずつ。
ストレッチ体操
頭を左に傾けて5〜10秒間静止し、元に戻す。右側も同様に、左右各2〜3回。
顔を左側に向けて5〜10秒間静止し、元に戻す。右側も同様に、左右各2〜3回。
筋力強化体操
手を組んで額に当て、手と頭で押し合うように軽く力を入れ5〜10秒間静止。組んだ手を後頭部に当て、後ろ側も同様に、前後各2〜3回。
左手を頭の左側に当て、手と頭で押し合うように軽く力を入れ5〜10秒間静止する。右側も同様に、左右各2〜3回。
カイロや温水シャワーなどで温める
一般に、慢性的な肩こりでは温めるとよいと言われます。やけどに気をつけながら、カイロや温水シャワー、ドライヤーの温風などを当ててみましょう。
医療機関で受ける治療
危険な肩こりでなければ、医療機関では通常まず薬物療法から始め、症状が改善しない場合に理学療法や神経ブロックなどを追加していきます。
薬物療法
非ステロイド性消炎薬…いわゆる「痛み止め」のことで、英語の頭文字をとって「NSAID(エヌセイド)」と呼ばれます。とくに急性期の痛みに対して効果があります。飲み薬や湿布、坐薬などがあり、病状に応じて処方されます。
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液製剤…NSAIDと異なるタイプの鎮痛薬です。痛みを制御している神経に働きかけたり、血流改善作用を介して症状を抑えます。NSAIDで起こりがちな胃が荒れるという副作用が少ないとされています。飲み薬と注射薬があります。
筋弛緩薬…筋肉のこわばりを抑える薬で、しばしばNSAIDと一緒に処方されます。
その他…神経の修復を助けるビタミンB製剤や、血流改善薬なども処方されます。
装具療法、理学療法
首の痛みが強いとき、首が動かないようにカラーを巻くことがあります(装具療法)。あまり長く巻いていると筋肉が弱くなってしまうので、痛みが強い急性期だけ用います。
理学療法としては、首からきている肩こりに対し機械で首を引っ張ったり(牽引療法)、首や肩に超短波を当てて温める方法(温熱療法)があります。装具療法と理学療法は主に整形外科で行う治療です。
ペインクリニック(神経ブロック)
肩こりの症状が強い箇所、または肩こりの原因と考えられる箇所の神経やその周辺に、注射で麻酔薬やステロイドホルモンを打ち、痛みやこりをとる治療法です。薬の効果は一時的なのですが、いったん症状がとれるので、肩こりの悪循環(前述の囲み記事)を断ち切ることができます。
この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ47『肩こり』(2018年2月発行)をもとに作成しています。