腰痛の患者数が最も多い理由

腰痛で悩んでいる方は非常に多く、厚生労働省の「国民生活基礎調査」では、男性の自覚症状の第1位、女性も肩凝りに次いで第2位という結果が出ています。腰痛に一度も悩むことなく生涯を終える人というのは、人口のせいぜい1〜2割だろうとも言われています。

腰には上半身の体重が集中してかかる

腰痛が多発するのは、脊椎せきついの構造に大きな理由があると考えられます。脊椎とは、いわゆる背骨のことです。

脊椎は、椎骨ついこつというブロック状の骨がいくつも連なって、首から骨盤まで続いています。椎骨と椎骨の間には椎間板ついかんばんという柔らかい円盤状の軟骨組織が挟はさまっていて、これがクッションの役割を果たすおかげで、上半身を曲げたりひねったりと、からだを自由に動かせるわけです。

背骨を構成する椎骨を上から見た図(脊柱管)・横から見た図(椎体・椎間板)・後ろから見た図(椎間関節)

この構造は「脊椎動物」に共通の構造ですが、人間だけが二足で歩くという点で異なります。二足歩行のために脊椎は、上半身を支えるという新たな役目を担うことになりました。その結果、骨盤に最も近い位置にある腰の脊椎は、一番負荷がかかりトラブルが起きやすくなります。腰痛は人類の宿命なのかもしれません。

こんなときはすぐに受診!(危険な腰痛とは)

大半の腰痛は自然によくなりますが、まれながら治療を急ぐべきケースもあります。

  • じっとしていても痛みが引かない…内臓や血管の病気の疑いがあるので詳しい検査が必要です。とくに突然、背中から腰にかけて激しい痛みが起こり、からだを動かさないのに強く痛むときには大動脈解離かいりの可能性があり、一刻を争います。
  • 足のしびれや麻痺、尿・便の失禁などを伴う…脊椎の中の神経が強く障害されていることを示す症状です。治療のタイミングを逃すと治療後の神経の回復が悪く、後遺症が残ってしまいます。
  • 熱がある…体温の上昇を伴う場合、脊椎への細菌感染が考えられ、専門的な検査・治療が必要です。
  • 痛みが徐々にひどくなる…がんなど進行性の病気や別の病気が併発した可能性があります。

腰痛の原因

①骨や軟骨、筋肉の病気による腰痛

腰部脊柱管狭窄症ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう 脊椎の内部の神経の通り道である「脊柱管」が狭くなり、神経や血管を圧迫する病気です。高齢者の腰痛や足のしびれ、歩行障害の原因となります。

椎間板ヘルニア 椎間板が飛び出して神経を圧迫し腰痛・坐骨神経痛を起こす、比較的若い人に多い病気です。

変形性脊椎症 加齢変化で椎間板が磨すり減ったり椎骨が変形し、腰痛が起きることがあります。

骨粗鬆症こつそしょうしょう 骨がもろくなって骨折しやすくなる病気です。脊骨が潰つぶれる圧迫骨折などによって強い腰痛が起こります。とくに中高齢女性に多い病気です。

スポーツ障害や外傷 外からの衝撃で起きる椎骨のずれや部分的な骨折、筋肉の炎症も腰痛の原因となります。

脊椎炎 女性に多いリウマチ、あるいは細菌による脊椎の化膿性炎症による腰痛もあります。

がんの転移 がんの脊椎への転移も強い腰痛を引き起こします。近年、がん自体の治療成績が向上し、患者さんの寿命が延びたため、このような腰痛が増えています。

②内臓や血管の病気による腰痛

腎結石や胆石、子宮の病気などの内臓の病気で腰痛が起きることも珍しくありません。膵炎すいえんや十二指腸潰瘍かいようなどでは、腰よりやや上の背中に痛みが走ることがあります。

また、お腹を通っている大動脈の内側の壁が破れて(大動脈解離かいり)、激しい腰痛が急に起きることがあります。救急治療が必要な「危険な腰痛」の代表です。

長引く痛みの原因は?(慢性腰痛の悪循環)

いったん腰痛が起きると腰をあまり動かさないようになります。すると腰の筋肉がこわばり血流が減少して、いわゆる「凝り」の症状も出てきます。しかも動かさないことで筋力が低下し、新たな腰痛の原因を作りやすい状態になってしまいます。加えて、痛みにより心理的に不安定(不安・うつ)になり、痛みに敏感になってしまいます。これらが、腰痛が長引きやすい理由の一部と考えられています。

③その他の腰痛

ここまで腰痛の主な原因を解説してきましたが、実は、腰痛の患者さんの原因の多くはこれらに該当しません。検査をしてもとくに異常が見つからないか、異常が見つかったとしても年相応の加齢的な変化だけのことが多いのです。また、原因と考えられた病気を治療し検査上では治っているのに症状が改善しないこともよくあります。

このような腰痛は、非特異的腰痛と呼ばれます。その原因は、現在の検査技術ではわからないようなわずかな変化、例えば血流減少、筋力低下、筋肉のこわばり・凝りなどが重なり合って症状を起こしている可能性や、神経が痛みに敏感になり過ぎている可能性、心理的なストレスなどの要因が考えられます。また、腰に負担がかかる姿勢で家事や仕事をしているといった、生活スタイルの中に原因が隠れているケースも多いと考えられます。

非特異的腰痛に関わる血流減少・筋肉のこわばり凝り・筋力低下・神経が痛みに敏感・心因(ストレス)・生活習慣という六つの要因を示した図

腰痛治療の流れ

①危険な腰痛の可能性があればすぐに検査・治療

腰痛治療の最初のポイントは、前述の「危険な腰痛」を見逃さないことです。かかりつけ医を受診し、これらに該当する可能性があると判断された場合、専門的な検査・治療のため、専門医療機関を紹介されます。

②大半のケースでは鎮痛薬などで少し様子をみる

①以外の腰痛の多くは、発症後数日〜1週間が痛みのピークです。それを過ぎれば痛みが軽くなることが多く、結果的に詳しい検査を必要としないことが大半です。そのため多くのケースでは、まず痛み止めの湿布や飲み薬が処方され、しばらく様子をみることになります。

③よくならなければ詳しい検査を行う

②の治療を続けても症状がよくならない場合は、詳しく検査をして原因を探します。その結果、痛みの原因がわかれば、その原因別に効果的な薬が処方されたり、あるいは手術を検討します。ただし、前に書きましたように、検査をしても原因がわからなかったり、手術をして原因を取り除いても症状はそれほどよくならないこともあります。その場合は薬物療法を中心に痛みを軽減させつつ、リハビリテーションで生活の質を維持するように努めます。

腰痛治療の薬

NSAID

非ステロイド性消炎鎮痛薬のことで、英語の頭文字をとり「NSAID(エヌセイド)」と呼ばれています。腰痛に限らずさまざまな痛みに対してよく使われ、炎症を伴う痛みの急性期により効果的です。飲み薬のほか、湿布、坐薬などいろいろなタイプがあります。副作用として、胃や十二指腸に潰瘍ができやすいことや腎臓に負担がかかりやすいことに注意が必要です。なお、潰瘍の副作用が現れにくい、COX-2阻害薬というタイプもあります。

アセトアミノフェン

痛みを抑える作用はNSAIDよりやや弱いものの副作用の少ない薬です。

体内鎮痛系に働く薬(作動薬)

NSAID等とは異なる作用の痛み止めです(後述)。

からだの中には、からだの異常を知らせるために「痛みを伝える」仕組みと、逆に「痛みを抑える」仕組みがあります。ストレスが長く続いたりすると「痛みを抑える」仕組みが弱まるために痛みに敏感になって、症状が長引くことがあります。この「痛みを抑える」仕組みに作用するのが「体内鎮痛系作動薬」で、腰痛によく処方されるものとして、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液製剤があります。

オピオイド

麻薬系鎮痛剤のことで、他の薬が効かない強い痛みに対し、期間を限って使われます。なお、アセトアミノフェン(前述)とオピオイドの成分を一つにした配合剤もあります。

血流改善薬

腰部脊柱管狭窄症で腰の血管や神経が圧迫されているときに、血管を拡張して神経への血流を増やし、症状を改善します。

筋弛緩きんしかん薬

筋肉のこわばりや凝りを解きほぐします。

骨粗鬆症治療薬

骨粗鬆症の場合は腰痛の有無に関係なく、骨を丈夫にするための薬が処方されます。

抗うつ薬

抗うつ作用のある薬の一部には、長引く痛みに効果があるタイプもあります。

神経ブロック

神経やその周りに局所麻酔薬やステロイド薬を注射して痛みをとる方法です。注射した薬の作用は一時的なものですが、いったん痛みがなくなることで痛みの悪循環(前述)を解消する効果があります。

脳から脊髄を通り神経・筋肉に至る、痛みを伝える神経と痛みを抑える神経の経路に、オピオイド・体内鎮痛系作動薬・血流改善薬・抗うつ薬・消炎鎮痛薬・骨粗鬆症治療薬・筋弛緩薬がそれぞれ働く部位を示した図
痛みは脳で感じている!(体内鎮痛系作動薬の効果)

腰の感覚神経で感知した痛みは神経を伝わり、脳で「痛い」と感じます。すると脳は、感じた痛みを抑える「下行性疼痛抑制系」という神経経路を働かせることがわかっています。このように体内には痛みを抑える仕組みがあり、「体内鎮痛系」と呼ばれています。この仕組みに働く薬は体内鎮痛系作動薬と言われ、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液などがあります。

自分でできる腰痛対策のポイント

腰に負担をかける生活習慣を改める

腰に負担をかけやすい姿勢や動作を知って、その対策をとりましょう。

腰に負担をかけない暮らしのポイント
  • 物を拾う・持ち上げるときは、しゃがんでから
  • 洗面などで前屈かがみになるときは、膝を少し曲げるか、片足を踏み台に乗せる
  • 掃除機を使うときは、柄を伸ばし前屈みにならないように
  • うつぶせや仰あおむけでなく、横向きに寝る
  • 炊事などで長時間立つときも片足ずつ交互に踏み台に乗せる
  • 椅子には深く腰掛け、背筋を伸ばす。高さが低すぎないように調節を
  • 同じ姿勢が続くときは、途中で柔軟体操

腰痛体操を気負わず気長に続ける

痛みが一段落したら腰痛体操を始めましょう。腰痛体操には、関節を柔らかくして腰の負担を減らしたり、筋肉の血流を改善する効果があるとされ、実際に継続している人の多くが症状改善効果を実感されます。

ただし注意事項として、痛みがひどい急性期にはやらない、動作には弾はずみをつけない、辛つらいと思ったら無理をせずにその体操は中止する――ということを守ってください。

腰痛体操の例
  • 仰向けで両ひざを立て、首と肩を浮かせておへそをのぞきこむ。できる人はそのまま上体を起こす
  • 仰向けで両足を抱え、首と肩を浮かせておへそをのぞきこむ
  • 仰向けで片足を抱え、なるべく胸に近付ける(左右交互に)
  • うつぶせになってあごを上げる。慣れてきたら肩や胸も上げる
  • うつぶせになり、おなかの下に座布団などのクッションをいれて、片足ずつ上げる(左右交互に)

Q&A

Q. ギックリ腰って何ですか?

正式な病名ではなく、動けなくなるような急性の腰痛のことを日本では「ギックリ腰」と呼んでいます。原因は「椎間板ヘルニア」であったり、椎体の一部がずれて起こる「脊椎すべり症」であったり、あるいは原因が特定できないいわゆる「非特異的腰痛」の急性症状であったりと、いろいろです。

Q. 市販の湿布には冷感タイプと温感タイプがありますが、どう使い分けるのでしょうか?

急性期で炎症があれば冷感タイプのほうが良いでしょう。慢性期には、貼って気持ち良いほうで構いません。

ただし、どちらにしても、1〜2週間使って効果がなければ使用を中止し、診察を受けてください。

Q. 処方された飲み薬を、痛みがひどいときだけ服用するというのはいけませんか?

基本的には医師に相談し、その指示を守ってください。急性の腰痛に対して用いられることの多い、飲むとすぐに効くタイプの薬がある一方で、規則正しく飲み続けることで効果がしっかり現れてくるタイプの薬もあり、医師はそれらを使い分けて処方しています。前者のタイプの薬であれば、痛いときにだけ飲むのでも構いません。ただしその場合でも、痛みが長引いたり繰り返し起こる場合は重大な原因による痛みの可能性もあるので、定期的に受診してください。

Q. 鍼灸しんきゅうや整体を受けたいのですが…

鍼灸しんきゅうや整体が効く方ももちろんいますから、試されるのは構いません。効果がなかったり、整体など外から力を加えるものでは逆に症状が悪化することもあります。あくまでも「自己責任で」ということになります。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ45『腰痛』(2018年1月発行)をもとに作成しています。