せきやたんは気道の病気の赤信号

せきやたんは、気道の病気・障害の赤信号です。気道とは、喉から肺へ通じる空気の通り道のことで、せきやたんが出るということは、この気道に何らかの異常が起きていることを示しています。

せきやたんからは、どんな病気が考えられ、どんな注意が必要になるのでしょうか。そもそもせきやたんは、なぜ出るのでしょうか。この小冊子パンフレットでは、ありふれた症状の割に奥が深い、せきとたんについて話を進めていきます。

どんなときにせきが出るのか

まず、せきが出るのはどんなときかを考えてみます。「せきが止まらないんですが、ぜん息でしょうか?」と、尋ねる患者さんがよくいますが、それは早とちりです。せきの原因となる病気は実に幅広く、診断がつくまでは、ぜん息に限らず気管支炎や肺結核けっかく、あるいは肺がんなど、いろんな呼吸器疾患の可能性があります。

せきはおもに、気道が刺激を受けたときに起きる、生体の自然な作用です。その原因として、①外気から受ける刺激、②たんが絡からむ、③気道に炎症がある、その他(肺の病気、薬の副作用など)が考えられます。

①は例えばチリや粉塵ふんじんを吸い込んだときなどがあてはまり、②とともに気道内の異物を体外へ取り除こうとするからだの防御反応で、病的なものではありません。これに対して③は、適切な治療や対処が必要なせきです。

まず、前者に該当する、健康な人にも起きる、気道の浄化作用としてのせき・たんについて、そのメカニズムをみてみましょう。

気道は喉から気管・気管支を通って肺へ通じることを示した図

気管支や肺は、つねに外気にさらされている

呼吸器が他の臓器と大きく異なるのは、常時、外気と接触しているという点です。吸い込んだ空気は喉から気管・気管支を通って肺の内部へ届けられ、血液中の二酸化炭素が酸素と交換されます。吸い込んだ空気の中には、いろいろな浮遊物(チリやホコリ、細菌、ウイルスなど)が存在していますから、それらがそのまま肺の奥深くに入り込んでしまったら、たちまち呼吸機能が低下したり、感染症にかかってしまいます。

せきの役目、たんの役割

気道の壁には細かい毛(線毛せんもう)がびっしりとはえていて、表面は粘液(分泌物ぶんぴつぶつ)で覆われています。気道に入り込んだ異物は、まず分泌物に絡み取られ、線毛の動きに乗って喉のほうへと運ばれて行きます。喉まで運ばれてきた異物を含む分泌物は、たいてい気付かないうちに食道に流れて胃の中に入りますが、量が多いとそれがたんとして排出されます。

線毛の働きが低下していたり、分泌物が多くてなかなか喉のほうに運ばれてこないときは、それが気道へ刺激を与えてせきが出ます。また、吸い込んだ異物の粒が大きいときや量が多いとき、刺激の強い性質の異物のときも、それを取り除くため、反射的にせきが出ます。このときに出るせきは、秒速40メートルというプロ野球投手の直球並のスピードで、強制的に異物や分泌物を排出します。

気道壁の粘液が異物を絡め取り、線毛運動で喉のほうへ運び、それでも取り除けないときにせきが起きるまでの流れを示した図
①粘液分泌→②線毛運動→③せき、という気道の浄化のしくみ

このように、せきやたんには、気道の清潔を保って肺を防御する、大切な役割があるのです。

がんこなせき、過剰なたんの原因

それでは、治療や対処が必要なのは、どんなときに出るせき・たんなのでしょうか。

病気によるもの

一番多いのは、かぜやインフルエンザなどの感染症です。このほか、慢性気管支炎、気管支拡張症、ぜん息などの気管支の病気、肺気腫はいきしゅ、肺炎、気胸ききょうなどの肺の病気、アレルギー性の病気、心臓病の影響などが考えられます。

最も重大なのは、肺結核と肺がんです。肺結核は、抗結核薬の登場とともに激減しましたが、近年再び増加してきて、社会的な問題になりつつあります。また、日本人の死因のトップはがんですが、そのなかでも一番多いのが肺がんです。両方とも早期発見がなによりも大切です。

せきやたんで大事なことは、放置せずに診察を受けて、原因を確かめることです。かぜだと思っている症状が、重大な病気のサインである可能性もあるからです。血たん(血が混ざったたん)が出たら、たとえそれが1回でも、すぐに受診してください。

なお、せきは、たんを伴うせき(湿性咳嗽しっせいがいそう)とたんを伴わないせき(乾性咳嗽かんせいがいそう、からせき)に大別でき、それによって、病気をある程度予測できます。

こんなとき、こんな人は、早めに受診しましょう
  • せきが2週間以上止まらない
  • 血たんが出た
  • 色の濃いたん、ねばりけの強いたんが出る

どれかあてはまるものがあれば、何らかの病気があるときです。とくに血たんは要注意です。また、次にあげる人は、病気の影響が大きく現れたり、病気が進行しやすいので、早めに受診してください。

  • 以前に呼吸器の病気をしたことがある人
  • 糖尿病の人
  • 心臓に病気がある人
  • 高齢者や小児
  • 膠原病こうげんびょう(リウマチや全身性エリテマトーデスなど)の人(とくにステロイド剤を服用している場合)

病気以外の原因

生活環境から受ける刺激も、せき・たんの原因となります。具体的には、自動車の排気ガス、工場などからの排煙、工事現場で発生する粉塵、喫煙(周りの人からの受動喫煙も含む)などがあげられます。そのほか、高血圧や腎臓の病気で処方されるACE阻害薬という薬の副作用で、軽いせきが続くこともあります。その場合は、医師に相談して別の薬に変えてもらう必要もあります。

せきの合併症、たんの弊害

せきがひどいときは、そのこと自体がからだに悪さをすることもあります。

せきは、1回で約2キロカロリー消費するといわれていて、1日せきが続いていれば、消費エネルギーは簡単に1,000キロカロリーを超えてしまいます。健康な成人の1日の消費カロリーは2,000キロカロリー程度ですから、せきによる体力消耗の激しさが伺えます。また、せきによる睡眠不足、気管支の炎症、肺機能の低下、心臓への悪影響なども心配ですし、強いせきでは肋骨ろっこつを折ることさえあります。

たんが絡む状態が続くのもやはり問題で、せきの原因になるほか、線毛運動の低下を招いてさらにたんが排出しにくくなったり、感染症にかかりやすくなったりします。

診断に必要な検査

問診、聴診

患者さんが訴える自覚症状や、聴診ちょうしん器で確認される呼吸音から、せきやたんの原因のおよその見当をつけることができます。

たんを調べる

たんは気道壁へきからの分泌物に、気道に入り込んだチリや細菌、気道壁から剥がれた細胞などが混ざったものです。たんの性状(色や匂い、ねばりけなど)や中に含まれているものを詳しく調べると、気管支や肺の中に隠れている病気を見付けることができます。正確な検査のためには、なるべく新鮮で「汚いたん」のほうがよいので、受診日の起床後最初に排出するたんが一番適しています。朝起きたら口をよくすすぎ、うがいをしてから排出したたんを検査してもらうようにします。病気によっては、3日間続けて調べたり、3日分のたんを溜めて調べることもあります。

画像診断

X線(レントゲン)撮影やCTスキャンで肺の内部を確認します。ぜん息や気管支炎などの気道の病気よりも、肺結核や肺がん、肺気腫など肺の病気の発見に役立ちます。なお、X線検査というと、被曝ひばくの心配をする患者さんがいますが、この検査のX線量はごく少量ですから、心配ありません。

環境調査

せきやたんの原因を調べるためには、生活環境の確認も必要です。例えば住まいが交通量の多い道路に面しているのなら、排気ガスの影響を受けているのかもしれません。

受診の際に、医師に伝えるポイント

せきやたんの原因は、数多くあります。次のような点をできるだけ詳しく医師に告げると、的確な診断に役立ちます。

  • いつからせき・たんが出ているのか
  • せきだけ出るのか、一緒にたんも出るのか
  • たんの色、匂い、ねばりけ
  • どんなときにせき・たんが出るのか(状況や姿勢、時間帯)
  • 熱はあるか(あったか)
  • 息苦しくないか(意識せずに呼吸できているか)

症状を抑えることよりも、原因に対する治療が大切

せきはむやみに止めない

せきを起こしている病気が見付かったら、その治療を進めることで、せきやたんは自然に少なくなります。薬を使ってむやみにせきを止めると、逆にたんが溜まりやすくなって病状を悪くしかねません。

呼吸器の病気は、せきを出させながら少しずつ治していくケースが多く、せき止め薬は、医師が必要に応じて処方する場合に限って服用します。診察を受けず、原因がわからないまま市販のせき止めを使っていると、病気を進行させてしまうこともあります。

薬を用いて気道の浄化作用を助ける

せきやたんの原因が、感染症なら抗生物質、アレルギーなら抗アレルギー薬といった具合に、それぞれの病気に応じて薬が処方されます。せきやたんそのものに対する治療としては、気道の浄化作用を助ける薬が用いられます。

去きょたん薬は、気道壁を滑りやすくしたり、たんのねばりけを少なくしてたんを排出し、気道をきれいにする薬です。

気管支拡張薬は、気管支を広げることで呼吸を楽にし、同時にアレルギー反応を抑えたり、たんの排出を促す作用もあります。

なかなかたんが切れないときは、腰を高くして上半身を下向きにする姿勢をとり、たんを排出しやすくする、体位ドレナージという方法をとることもあります。

下方のたんを出すときと前胸部のたんを出すとき、それぞれの体位ドレナージの姿勢を示した図
体位ドレナージ:絡んだたんは、体位を工夫すると排出されやすくなります。バイブレーターをあてると、さらに効果的です(上:下方のたんを出すとき/下:前胸部のたんを出すとき)
暮らしのなかのちょっとした工夫
  • 体力の消耗を防ぐ せきは想像以上に体力を使います。疲れを溜めず、睡眠はたっぷりとりましょう。
  • 栄養のあるものを十分に せきによる体力消費を補い、病気に対する抵抗力をつけるため、栄養を十分摂ってください。
  • 室内は加湿し、水分補給も多めに 空気が乾燥するとたんが排出されにくくなりますから、加湿器などで室内の湿度を保つのはよいことです。また、水分を多めに摂ると、たんのねばりけが少なくなって、排出されやすくなります。
  • 冬季のマスク使用 吸気きゅうき(吸った空気)を暖め気道への刺激をやわらげるためにも、呼吸器の病気のときは、冬場の外出にはマスクを使うことをおすすめします。
  • 空気の浄化、禁煙 気道や肺の保護のため、なるべくきれいな空気が吸えるようにしてください。空気清浄器を使うのもよいでしょう。当然ですが、禁煙は必須です。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ6『せきとたん』(2016年6月発行)をもとに作成しています。