気管支ぜん息は、どんな病気ですか?
気管支ぜん息(以下、ぜん息と略します)は、発作性に気道が収縮するために咳や息を吐く時のゼーゼーという呼吸音(喘鳴)と呼吸困難を繰り返す病気です。発作は、夜から早朝にかけてよく起こります。ぜん息の患者さんの気道(喉から肺の奥へ伸びている空気の通り道。気管支は気道の一部です)には慢性的に炎症が起きていて、刺激に対して敏感になっています。そこになにかの変化や刺激が加わったとき、気管支が収縮し発作が起こります。
発作はゼーゼーヒューヒューという呼吸音(ぜん鳴)を伴う息苦しさに始まり、強い夜間の咳で眠れないこともあり、ひどい場合は呼吸困難、呼吸停止に至ることもあります。ただし、発作時以外には、自覚症状はほとんどありません。
ぜん息の原因としては、アトピーなどのアレルギー体質のほか、気道の感染症などがあげられますが、特定しにくいケースもあります。
発作が起きやすいのはどんなときですか?
アトピーによるぜん息では、アレルゲン(アレルギー反応を起こす物質)に接触したときに発作が起こります。アレルゲンは人それぞれ異なりますが、ダニやカビ、卵やソバなどの食べものなどがあげられます。
アレルゲンのほかに、かぜなどの気道感染や季節の変わり目(とくに春や秋)、天候の変化、疲労、食べすぎ、運動、ストレス、アルコール摂取などが発作の誘因となります。時間的には、夜から早朝にかけてが一番発作が起きやすい時間帯です。
ぜん息は「コントロールする病気」といいますが、「治る」のとどう違うのですか?
ぜん息が治る(治癒)とは、気道の炎症がなくなり、薬をやめても発作が全く出ない状態のことをいいます。実際にそのような状態にまで治療するのはなかなか大変で、薬をやめると再び発作が起きやすくなります。
その一方でぜん息は、発作時以外は全く支障がない病気です。ですから、「薬によって発作を『コントロール』することで、健康な人と同じように生活できる病気」と表現されることが多いのです。ただし最近は治療が進歩し、特に子どものぜん息では成長とともに治癒に至ることも徐々に増えてきました(子どものぜん息についてはQ8も参照してください)。
なお、ぜん息の治療では発作が起きた時にそれを鎮めるだけではなく、発作を起こさないようにすることが大切なことを理解しておいてください。発作のもとになっている気道の炎症は、発作が起きるとますます進行して、さらに発作を起こしやすくするからです。
本当の意味でのぜん息コントロールとは、発作時に適切に対応するということだけでなく、発作を起こさない状態を維持するということです。その状態が長期間続くことが、ぜん息の治癒に欠かせません。
ぜん息で亡くなる人もいるそうですが、それはどんな人ですか?
国内で毎年約1,000人が、ぜん息発作で亡くなっています。ぜん息死は、頻繁に発作が起きたり発作の症状が重い人に多いのですが、それまで比較的軽症と思われていた人がぜん息死してしまうことも珍しくありません。それは、ぜん息という病気を正しく理解していないために、発作に適切に対処できなかった結果と考えられます。
発作のときに気管支拡張薬を使うだけで普段きちんと治療をしていない人や、発作が出ないからといって勝手に薬を中止してしまう人、ぜん息は完治するものだと思って病院を次々に変えている人、定期的に通院しない人などは、大きな発作が起きる前に、正しい知識と治療法を早く身につけてください。
発作を鎮めるポイントを教えてください。
発作が起きたときは、なるべく早い段階で気管支拡張薬を吸入することが大切です。気管支拡張薬は発作の初期にはよく効きますが、気道収縮が強くなると、あまり効果が期待できません。最初は軽そうにみえる発作が急に重い発作に変わることもありますから注意してください。
発作がいつもより重いと感じたら、あらかじめ主治医から受けている指示に従って、素早く対処します。会話や歩くのも難しいような発作や、気管支拡張薬を使っても発作が治まらない、次第に症状が悪化していくといったときは、すぐに救急病院を受診してください。一人の場合は救急車を呼んでください。発作は深夜に起きやすいものですが、だからといって遠慮は禁物です。
発作を起こさないために、自分でできることはありませんか?
まず第一に、発作の原因を取り除く工夫をしてください。アレルゲンを減らすには、室内をこまめに掃除し、ふとんやカーテンも十分に掃除機をかけ、エアコンのフィルターも忘れずに清掃します。ペットは飼わないほうが賢明です。気温の変化の刺激をやわらげるには、なるべく家全体を空調するのがよいでしょう。乾燥する季節には、加湿器を使うのもよい方法です。また、冬季のマスク着用は、吸い込む息を暖めてくれて効果的です。たばこはやめてください。患者さんがいるご家族は、全員が禁煙する必要があります。
第二には、与えられたぜん息薬を毎日服用することです。第三に吸入薬の仕方を十分マスターし、正しく使用することです。主治医や薬剤師や看護師などの医療従事者にしっかりと指導していただいて下さい。第四に使ってはならない薬を自分で知っておくことです。すなわち、非ステロイド系の解熱鎮痛薬(アスピリンぜん息の場合)、ベータ遮断薬という降圧薬の一種、麻薬などです。
第五に自分で気道の状態を知ることです。ぜん息発作は突然起こるように感じますが、気道の収縮は発作の前から始まっていて、ある程度まで気道が狭くなったときに、初めて息苦しさが自覚されるのです。自分で気道の状態を把握しておけば、発作が起きそうなときは薬を多めに使用して、発作を予防することができます。
気道の状態を知るには、ピークフローメーターを使います。ピークフロー(peak expiratory flow;PEF)とは、いっぱいに吸い込んだ息を、思い切り吐き出したときの空気の流速のことです。気道が収縮していればピークフローが低下します。起床後と夕方(または夜)の2回測り、次の基準をめやすに自己管理します。
PEFが最良値の80〜100%…グリーンゾーン。
ぜん息はよくコントロールされています。いつもどおりに薬を使用してください。
PEFが最良値の50〜80%…イエローゾーン。
発作が起きやすい状態です。医師に指示されているとおり、吸入ステロイドの量を増やしたり、場合によっては経口ステロイドを服用し、グリーンゾーンに回復するよう努めます。
PEFが最良値の50%未満…レッドゾーン。
最も重症な状態です。すぐにβ2刺激薬を吸入して、医師に指示されているとおりに吸入ステロイドの量を増やしたり、場合によっては経口ステロイドを服用します。そのあと、なるべく早く医師の診察を受けてください。
発作が少なくなったら、薬は減らしたほうがよいのですか?
発作が起きてなくても気道の炎症が残っていれば、いずれ再発します。薬の中止や減量は、発作の頻度や気道の状態をみながら、医師が慎重に判断します。患者さんの自己判断で薬を中止したり減らす行為は、ぜん息死を招きかねません。
子どものぜん息は、大人のぜん息となにか違いがありますか?
まず、子どもの場合は病気を管理するのが本人ではなく、保護者であるという点が大きな違いです。発作が起きたとき、保護者の方はそれが軽い発作なのか重い発作なのかを判断し、自宅で対応できるのか病院に連れていくべきなのか、適切な手段を選ぶ必要があります。なお、発作が重くなると、ゼーゼーヒューヒューというぜん鳴がしなくなりますが、これは呼吸停止に近い、大変危険な状態です。
子どものぜん息では、原因がアトピーによるものが多いという特徴もあります。なにがアレルゲンなのかがわかったなら、それを避けることで、発作を比較的防ぎやすくなります。
また、ぜん息だからといって特別扱いするのはよくありません。運動などもできるだけほかの子どもと同じようにさせてあげてください。
水泳がよいと聞きましたが…
1964年の東京オリンピックで多数のオーストラリアの選手が金メダルを獲得して人々を驚かせました。オーストラリアでは国の方針のもとに喘息を克服するため14歳から水泳を始めていました。このような政策によって小児ぜん息経験者による水泳王国となりました。我が国でも東京オリンピックのオーストラリアの選手の活躍の影響で喘息を患った子供たちの多くが水泳教室に通うようになりました。そうした子供たち中からオリンピックのメダリストが輩出しています。
運動誘発性ぜん息は口腔や気道からの水分の蒸発が発作の切っ掛けになると考えられていますから、水泳はぜん息を誘発しにくいスポーツと思われます。
治療には、どんな薬が処方されるのですか?
ぜん息薬は増悪を予防する薬(長期管理薬=予防薬)と発作(増悪)時に治す薬(増悪治療薬)に大別されます。日頃は予防薬を使い、それでも増悪を起こした場合に増悪治療薬を使います。
長期管理薬はぜん息が悪化しないように予防する薬です。吸入薬が主体ですが経口薬や貼り薬もあります。吸入ステロイドはぜん息治療の主役で、ぜん息の原因である気道の炎症を防ぎます。ステロイドと聞くと不安になる人がいますが、吸入薬はほとんど体内に吸収されず、吸収されても大部分が肝臓で処理されるので安全です。エアーとパウダーがありますのでそれぞれの吸入の仕方を習得して下さい。また、ロイコトリエン受容体拮抗薬は気道の炎症を抑える非ステロイド系の飲み薬です。吸入ステロイド薬が使用出来ない小児にはしばしば用いられます。また、キサンチン誘導体とも呼ばれるテオフィリン製剤があります。この薬剤は投与量によって色々な副作用が出るので医師の指導管理が特に大切です。吸入ステロイドなどの抗ぜん息薬が無効な重症のぜん息や増悪時に経口や注射の副腎皮質ホルモンが使用されることがありますが、長期に使えば消化管出血、肥満、骨粗鬆症、白内障などの全身性の副作用が出るため最近は出来るだけ短期間の使用が勧められています。
5) 抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)
気管支の収縮を抑える吸入薬です。単独では主にCOPDに使用されますが、喘息では他の吸入薬と併用して使用されます。前立腺肥大を合併している場合は排尿障害が悪化することがあるので注意が必要です。閉塞隅角緑内障には使用できません。
6) 吸入ステロイドと長時間作用型β2刺激薬の2剤配合薬
現在予防薬と長時間作用する気管支拡張薬の配合薬が、ぜん息治療として最初から選択される傾向にあります。
7) 吸入ステロイドと長時間作用型β2刺激薬と抗コリン薬の3剤配合薬
抗コリン薬は咳や痰を抑える効果があり、また好酸球による炎症と関係のない女性の肥満喘息にも効果があり、さらに、吸入ステロイドやβ刺激薬の効果を高める作用があるため重症のぜん息にはこの3剤配合薬として使用されます。また、この3者の配合薬は吸入ステロイドとβ2刺激薬との2剤配合薬よりもより重症のぜん息が悪化する比率が少ないとされています。
8) 生物学的製剤(分子標的薬)
細胞から出てぜん息を引き起こす蛋白分子そのものを直接抑える薬です。経口ステロイドでも改善しない難治性ぜん息に有効です。経口ステロイドを減量あるいは停止出来るのも利点です。2023年現在5種類の製剤が発売されています。値段の高いことが難点です。
1) β2刺激薬:吸入・貼付・経口
収縮した気管支を拡張させて増悪を改善します。β2刺激薬の吸入薬が増悪治療薬の代表です。β2刺激薬には吸入後すぐ効果が出ますが、作用が1時間以内の短時間作用型と24時間程度作用が持続する長時間作用型があります。増悪治療薬としては短時間作用型β2刺激薬が使用されます。そして長時間作用型β刺激薬は吸入ステロイドや抗コリン薬との配合薬として重症ぜん息の長期管理薬や増悪の予防薬として使用されます。
2) 全身性ステロイド(副腎皮質ホルモン) 経口・注射
重症のぜん息増悪の時に使います。副作用を考慮して十分量を出来るだけ短期間使用します。
コントロールの薬としてよく処方されるのは、吸入ステロイドです。ステロイドは抗炎症薬としてぜん息以外の病気でもよく使われますが、副作用がよく話題になります。しかし、吸入の場合は必要な所に直接薬が届き、しかもステロイドの量は内服よりずっと少量なので、副作用はまず問題になりません。吸入ステロイド以外には、吸入ステロイドに症状を軽減させる気管支拡張薬(長時間作用型β2刺激薬や抗コリン薬)を配合した吸入薬や、アレルギー反応による気道の炎症を鎮める目的で抗アレルギー薬が処方されます。重症のアトピー型ぜん息ではステロイドの注射薬も使われることがあります。
発作治療薬の代表は吸入のβ2刺激薬です。気管支の筋肉は交感神経の刺激で弛緩し(ゆるみ)、副交感神経の刺激で緊張します。この薬は交感神経を刺激することで気管支筋をゆるめ、気管支を拡張させます。吸入後すぐに作用が現れて、発作を短時間で鎮めてくれます。このβ2刺激薬のほかには、キサンチン製剤(テオフィリン)なども気管支拡張作用がある薬です。
なお、ぜん息は気道の炎症が基礎にある病気です。発作が起きる起きないにかかわらず、抗炎症薬を使って病気を管理し、気道の状態が悪くなっているときには気管支拡張薬で対応するというのが、現在のぜん息治療の基本的なスタイルです。重症の喘息には経口や注射の副腎皮質ホルモン(ステロイド)が使用されますが、長期間の使用で骨粗鬆症や肥満や白内障などの全身性の副作用が現れます。
喘息の5%は、経口ステロイドを含む通常の喘息薬ではコントロール出来ない難治性ぜん息です。生物学的製剤は高額なことが欠点ですが、これによってステロイドの量を減らし喘息症状を改善させ、増悪を防ぐことが出来ます。
ぜん息以外の病気にかかったときは、どうすればよいですか?
ぜん息の人のなかには、ある種の薬を服用することで発作が誘発される人がいます。最も発作の誘因となりやすいのは解熱・鎮痛薬で、かぜをはじめ多くの病気の治療で処方されます。高血圧や狭心症などに処方されるβ遮断薬も、発作を誘発しやすい薬です。
いつもと違う病院にかかるときは(歯科治療の場合も)、自分がぜん息であることを必ず医師に伝えてください。また、薬局で市販薬を購入する際には薬剤師に相談してください。普段使用している薬やコントロール状態を書いたメモを、いつも身につけておくと便利です。海外旅行の際には、あらかじめ主治医に、ぜん息患者であることや治療内容を英語で書いてもらっておくとよいでしょう。
なにかほかにアドバイスがあればお願いします。
自覚症状やピークフローの測定値、使用している薬の名前と量などを毎日記録していくと、自己管理に大変役立ちます。また、通院時にそれをもっていけば、医師が治療法を決めるうえで重要な判断材料になります。
日常のストレス解消も大切です。過剰なストレスが発作を起こしやすくすることも少なくありません。
あとは、ぜん息発作を必要以上に不安がらないことです。普段あまり発作を起こさないのに、旅先で気管支拡張薬を忘れたとわかったとたん、発作を起こす人がいます。これなどは心配しすぎの悪い例。確かにぜん息は、発作に適切に対応しないと死に至ることもあり、決して甘くみてはいけない病気です。しかし、しっかりとした知識をもって管理していれば、全く恐れる必要のない病気でもあるのです。
この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ3『気管支ぜん息 Q&A』(2016年12月発行)をもとに、専門班による改訂原稿を反映して作成しています。