はじめに

この小冊子パンフレットを手にされたあなたは、どのような状況にあるのでしょうか。ちょっと風邪気味で、かかりつけ医の先生にみてもらおうとされているところでしょうか。それとも、高血圧、糖尿病などの慢性の病気があって、受診されておられるのでしょうか。

いずれにせよ、からだの具合が悪いと、心だけ元気というわけには、なかなかいかないものです。からだの具合が悪くて心まで落ちこむのは、ある程度は当然のことといえますが、その落ちこみの程度がひどかったり、長く続いたりしている場合は、もしかしたら最近増えているあの病気、「心の風邪」かもしれません。

最近ちょっとブルーなあなたへ── これは、あなたがそんな「心の風邪」にかかっていないかどうかを調べる手がかりを提供し、もし万が一かかっていたとしても適切な治療で治る!ということを伝えるために作られた小冊子です。

思いあたりませんか?

異常がないといわれた

いろいろとつらい症状があるのに、いくら検査をしてみても、どこも悪くないといわれてしまった。

症状が長く続く

ちゃんと診断がつき、薬も先生の指示どおりに飲んでいるのに、症状がなかなかよくならない。もう長いこと症状が続いている。

いわゆる「不定愁訴ふていしゅうそ」が多い

身体がだるい、すぐに疲れる、頭がはっきりしない、肩や首がこる、お腹がすかないなど、全体的になんとなく調子が悪い。症状が多い。

眠れない

最近、よく眠れない。目がさめたとき、よく眠った、疲れがとれた、という感覚がない。夜中や早朝に目がさめてしまうことが多い。

気分が落ちこんでいる。

なんとなく気が重い。正直いってブルー、落ちこんでいる。気がめいる。ゆううつ。なにをするのもおっくう。めんどくさい。つらい。

→思いあたるふしがある方は、もしかしたら、「心の風邪」かもしれません。チェックしてみましょう。

自分でチェックしてみましょう

表1は、心の風邪を発見する手がかりとなる自己診断チェックシートです。

表1 自己診断チェックシート(PHQ-9)

この2週間、次のような問題にどのくらいひんぱんに悩まされていますか?
もっともよくあてはまる選択肢の中から一つ選び、チェックしてください。

全くない数日半分以上ほとんど毎日
(A)物事に対してほとんど興味がない、または楽しめない□□□□
(B)気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気持ちになる□□□□
(C)寝付きが悪い、途中で目がさめる、または逆に眠り過ぎる□□□□
(D)疲れた感じがする、または気力がない□□□□
(E)あまり食欲がない、または食べ過ぎる□□□□
(F)自分はダメな人間だ、人生の敗北者だと気に病む、または自分自身あるいは家族に申し訳がないと感じる□□□□
(G)新聞を読む、またはテレビを見ることなどに集中することが難しい□□□□
(H)他人が気づくぐらいに動きや話し方が遅くなる、あるいは反対に、そわそわしたり、落ちつかず、ふだんよりも動き回ることがある□□□□
(I)死んだ方がましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある□□□□

あなたが、いずれかの問題に1つでもチェックしているなら、それらの問題によって仕事をしたり、家事をしたり、他の人と仲良くやっていくことがどのくらい困難になっていますか?

全く困難でないやや困難困難極端に困難
□□□□

回答を「全くない=0点」、「数日=1点」、「半分以上=2点」、「ほとんど毎日=3点」として総得点を算出したものが、PHQスコアとする。その範囲は0〜27点である。

スクリーニング評価:「0〜4点:なし」、「5〜9点:軽微〜軽度」、「10〜14点:中等度」、「15〜19点:中等度〜重度」、「20〜27点:重度」

©kumiko.muramatsu「PHQ-9日本語版 2018版」
PHQ-9日本語版(2018)の無断複写、転載、改変を禁じます。
出典:Muramatsu K, Miyaoka H, Kamijima K et al. Performance of the Japanese version of the Patient Health Questionnaire-9 (J-PHQ-9) for depression in primary care. General Hospital Psychiatry. 52: 64-69, 2018.
新潟青陵大学大学院臨床心理学研究, 第7号, p35-39, 2014

誤解していませんか

「心の風邪」とこれまで表現していた病気は、実は「うつ病」のことです。これまでストレートにそう表現しなかったのは、うつ病に関して多くの偏見・誤解があり、うつ病と書かれているのをみただけで小冊子のページをパタンと閉じられてしまうことも多いためです。以下に代表的な誤解と正しい理解を示します。あなたは、誤解していませんか。

誤解1

うつ病は精神病である = ×
うつ病は脳内神経伝達物質の病気 = ○

その昔、精神分裂病(現在は統合失調症と呼ばれるようになりました)、うつ病、てんかんの三つを「3大精神病」と呼んでいた時代がありました。そのなごりのせいか、うつ病は今でも精神病の一つと考えられることが多いようです。しかし、最近の病気の国際分類では、うつ病は「気分障害」「感情障害」に分類されており、脳内の神経伝達物質の異常で起こる「脳内神経伝達物質の病気」であることが明らかとされています。

誤解2

うつ病は特殊な人だけがかかる病気 = ×
だれもがかかる可能性のある病気 = ○

うつ病に遺伝の関与は認められていますが、それですべてが説明できるわけではありません。うつ病は、遺伝で特殊な人だけがかかる病気というより、一般の人すべてがかかる可能性のある、ありふれた病気といえます。

誤解3

うつ病は治らない = ×
うつ病は治る = ○

うつ病は治らないというのも誤解です。最近では、優れた抗うつ薬も開発されており、早期に適切な治療が行われれば、うつ病は治ります。

誤解4

精神科を受診しなければならない = ×
一般内科で診療してもよい場合がある = ○

うつ病と診断されると、精神科を受診しなければならないというのも誤解です。うつ病の専門は精神科、心療内科などですが、最近では、神経内科や一部の一般内科でも診療が行われています。

心の風邪Q&A

Q1.心の風邪とは、どんな病気ですか。

だれでも気分の波はあるものですが、その波が深くなり、気分がゆううつで元気が出ない状態が2週以上続く病気のことをいいます。うつ病はありふれた病気であることから、よく「心の風邪」と表現されますが、患者さんのつらさは、風邪の比ではありません。また、2年も3年も長びいたり、重症化したりすることもありますが、適切な治療を早期に確実に実施するほどその後の経過がよくなります。

Q2.どんな人がかかりやすいのですか。

小児からお年寄りの、どの年代の人もかかる可能性があります。性格的には、几帳面、仕事熱心、義務感・責任感が強い人がかかりやすいといわれています。

Q3.だれでもゆううつになるときはあると思いますが、うつ病との違いは?

親しい人の死、失業、失恋、事故、事件、病気や怪我などで、一時的にゆううつになることは、誰もが経験することです。しかし、その落ち込みの程度がひどく、しかも長く続くのがうつ病の特徴といえます。

たとえば家族の死で落ち込んでいる人がいても、そのことは他人に理解できる範囲であり、ゆううつ感は時間とともに軽減していきます。これに対し、うつ病では落ち込むきっかけがない場合もあります。日常生活に支障が出るほどのつらい状態が長く続くことが多く、時間がたっても軽快しません。

Q4.メカニズムは?

脳の活動は、さまざまな神経伝達物質による神経細胞間の情報伝達により行われています。うつ病では、この神経伝達の機能が障害され、そのためにさまざまな症状が起こると考えられています。また、うつ病は脳の血管障害や甲状腺こうじょうせん機能低下症などの病気や、薬剤の服用で起こることもあります。

Q5.どんな症状がありますか。

大きく精神症状と身体症状に分けられます(次の図)。ゆううつ感は中心症状といわれていますが、その自覚がなく、身体症状がおもに現れる場合もあります。症状は一般に午前中に重く、午後から夕方にかけて軽快します。

うつ病で最も注意すべきなのは、希死念慮きしねんりょ(死にたいと思う気持ち)からくる自殺で、とくに治りかけが要注意といわれています。

うつ病でみられる感情面・思考面・意欲面の精神症状と、頭痛やめまい、食欲不振、腹痛など全身に現れる身体症状を人体図に示した図

Q6.治療法を教えてください。

うつ病の治療は、休息、薬物療法、精神療法の3本柱が基本です。とくに最近増えている軽症うつ病は、これらの適切な治療により、ほとんどが治ってしまいます。

休息は、文字通り、なにもせずに休むことです。うつ病の患者さんは、休むことに罪悪感を覚えることもあるようですが、病気を治すために必要なことですので、医師のアドバイスがあれば素直に従いましょう。

薬物療法は、抗うつ薬が中心となります。これは、うつ病で障害されている神経伝達を改善することによりさまざまな症状に効果を現す薬剤です。以前は副作用の多い薬剤が使用されていましたが、最近の薬剤は副作用も少なく、患者さんには福音といえます。

精神療法は、患者さんの心理を理解し、それを支持することで、精神的に立ち直らせようとする治療法です。

Q7.上手につきあうための心がまえは?

うつ病にかかった場合、予防の場合の心がまえを以下に示しました。参考にしてみてください。

うつ病と上手につきあうための心がまえ

① うつ病にかかったときの心がまえ

  1. 必ず治ると信じる。
  2. 退職、不動産売買、離婚など人生の重大なことは決めない。
  3. 抗うつ薬は指示どおりにのむ。
  4. 自分を責めたり、深刻に考えこまない。
  5. 自殺は絶対にしない。

② うつ病予防のための心がまえ

  1. うつ病についての正しい知識をもつ。
  2. 発病当時の状況を再び作らない。
  3. 退職、単身赴任、子供の独立など人生の節目、変わりめに注意する。
  4. ものごとは大事なことから片づける。
  5. 食生活や睡眠にいつも気を配る。

Q8.家族へのアドバイスは?

うつ病を治すためには家族の方の協力が不可欠です。家族の方に心がけていただきたいポイントをあげておきましょう。

うつ病患者の家族の方へ
  1. ゆっくりと休養できる環境をつくってあげましょう。
  2. うつ病は必ず治るので、家族もあせらないように。
  3. 怠けているのではなく病気であることを理解しましょう。
  4. 励ましたり叱ったりは禁物です。
  5. 外出や旅行など気晴らしに誘わないように。
  6. 抗うつ薬の服薬を確認しましょう。
  7. 自殺しないようにつねに気をつけましょう。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ10『気分障害』(2012年12月発行)をもとに、専門班による改訂原稿を反映して作成しています。