経口剤に基礎インスリンを併用する方法

最初の一歩

最初に健常な方のインスリン(血糖値を低下させるホルモン)分泌がどのようになっているかを図1に示し説明いたします。

健常な人の1日の血中インスリン濃度の変化を示すグラフ。朝6時から翌朝6時まで、インスリン濃度は1日を通して10ミリ単位/L以下の低い値で続き(基礎分泌、朝食前血糖を低下)、朝食・昼食・夕食のたびに50〜60ミリ単位/L前後まで急に上がってから下がる(追加分泌、食後血糖を低下)
図1 健常人におけるインスリン分泌動態〔Heise T, Heinemann L. Curr Pharm Des 7:1303-1325, 2001より一部改変〕

図1に一日中出ているインスリン(基礎インスリン)と食事のたびに分泌される追加インスリンがあります。基礎インスリンは、肝臓に作用し空腹時血糖値の上昇を抑制し、常に空腹時血糖値を100mg/dL以下にしています。追加分泌は食後の血糖値を低下させ食後血糖値を120mg/dL以下にしています。

糖尿病の罹病期間が10年以上になりますと、この両方のインスリン分泌が低下してきます。インスリン治療を開始する場合、基礎インスリン補充が開始しやすいこと、このインスリン治療で空腹時血糖値が低下しますと、内服薬の効果がでやすいため食後の血糖値が改善してきます。

外来で糖尿病を持つ方の血糖値コントロールが目標に達しない場合、1つの指標としてHbA1cが8.0%以上、6ケ月以上継続した場合インスリン治療を説明し、経口糖尿病薬やGLP-1R作動薬に基礎インスリン補充の併用療法を開始します。

1例をとおしインスリン導入法につき説明します。例えば65歳、男性、糖尿病罹病期間18年、身長172cm、体重73kg、BMI24.7の方でDPP4阻害薬とメトホルミンとの配合薬、各食前にグリニド薬にてA1cが3回共8.0%前後で、インスリン治療の説明をしていました。しかし同意が得られずコントロール不良にて各食事前のαグルコシダーゼ阻害薬を追加し3ケ月経過を診ていましたがA1c 8.0%を切ることはできないため再度インスリン治療の説明をして同意が得られました。

インスリンとして基礎インスリン、デグルデク(トレシーバ)就寝前に8単位から開始としました。体重当たり0.1から0.2単位の基礎インスリンを併用すると低血糖の危険は少なく安心です。本例は73kgのため73×0.1=7.3単位のため8単位から開始したことになります。

2週後に空腹時血糖値を測定し、空腹時血糖値が120mg/dL以下になるように基礎インスリンを調整していきます。空腹時血糖値が160mg/dL以上あれば、トレシーバを2単位増量し10単位とします。

またインスリンの自己注射手技を確認後、血糖自己測定につき説明し朝食前と夕食前、夕食1時間後の3回、血糖値を測定し、記録してもらうようにします。週2回から3回実施してもらい、2週後か4週後に血糖測定値の記録を見て、空腹時血糖値が120mg/dL以下になるようにトレシーバ投与量を調整します。また血糖自己測定にて空腹時血糖値が80mg/dL以下になるようであれば、トレシーバを2単位自分で減らすように説明しておきます。

一般的に基礎インスリン量は体重当たり、0.4単位まで増量可能であり、本例では体重73kgのためトレシーバ29単位まで増量可能です。

また血糖値が改善していけば、経口血糖降下薬を減量することは可能ですが、少しでもインスリン分泌を促す薬剤は中止しない方が良いと考えています。これは内因性インスリンが肝臓に到達し幾つもの経路で糖代謝を改善する作用があるからです。本例ではαGIを中止して良いと考えます。

インスリン治療の第2段階

次に空腹時血糖値は常時120mg/dL以下となっているにも関わらず、HbA1cが目標値、基本は7.0%以下にならない場合もあります。その次の1手として、一日3食のうち1番食事量の多い食事前に1回、例えば夕食が、朝・昼に比較し品数が多く量が多い場合、超速効型インスリン(グルリジン:アピドラ)を体重×0.2の3分の1の量、本例では73×0.2=16で、その3分の1で5単位となり、夕食直前に投与します。例えば、トレシーバ16単位で朝食前が120mg/dLでありながらA1cが7.6%であれば夕食直前にアピドラ5単位、就寝前にトレシーバ16単位で経過を見ていきます。(図2)

インスリン治療を段階的に強めていく流れを階段状に示した図。食事・運動療法、経口血糖降下薬(単剤・併用)でHbA1cがコントロール不十分なら、基礎インスリンを1日1回追加して空腹時血糖を下げるBOTへ進む。空腹時血糖(FBG)はコントロールできているがHbA1cがコントロール不十分なら、基礎インスリンに追加インスリン1回、2回を加えるBasal Plusへ、さらに基礎インスリンに追加インスリン3回を加える強化インスリン療法(Basal Bolus)へと進む
図2 1日1回から4回の強化療法へのステップ

この2回法でA1cが7.0%以下にならない場合、朝食前にアピドラ5単位を追加する3回法が選択されます。この時点では、血糖自己測定を朝食後1~2時間、夕食後1~2時間に測定してもらいます。朝食後は仕事で測定しづらい場合は休みの日に測定してもらうだけでも参考になり、食事前血糖値120mg/dL、食後血糖値を180mg/dL以下になるよう超速効型インスリンの投与量を調整していきます。最終的には、昼食前にも投与する、ベーサル・ボーラスインスリン治療(1日4回皮下注)が必要となる場合があります。

ただし昼食前の投与が困難という場合、3回法から混合製剤2回法へ変更することも可能です。例えば、混合製剤としてライゾデグを使用する場合、夕食前の超速効型インスリンと基礎インスリンを合わせた量を、夕食前のライゾデグとします。

例えば、夕食前アピドラ6単位、就寝前にトレシーバ10単位であれば、夕食前に2剤投与量を合わせて16単位のライゾデグを投与します。低血糖が危惧される場合は16単位の7~8割の投与量(11から13単位)から開始します。この場合12単位を夕食前に投与すると決定した場合、朝食前にも同量の12単位を投与します。すなわち、アピドラ(10-0-6)、トレシーバ(0-0-0-10)の投与でA1cが8.0%以下であれば、この投与量で同等の血糖低下作用が得られます。血糖自己測定を朝食前と夕食前に実施し朝食前の血糖値を120mg/dL以下になるよう夕食前のインスリン投与量を1から2単位増量します。120mg/dL以下になり、夕食前の血糖値が120mg/dL以下になるように朝食前のライゾデグを1-2単位増量していきます。逆に朝食前の血糖値が80mg/dL以下になれば、夕食前のライゾデグを2単位減量していきます。

週1回投与の基礎インスリン

近年、イコデク(アウィクリ)が使用可能となりました。アドヒアランスの良い方には週1回投与可能な基礎インスリンです。週1回投与する曜日を決めて投与します。ただし、1週間のうち日により活動量や食事量が異なる場合は、イコデクの適応ではありません。投与量の考え方ですが、デイリーの基礎インスリン投与量を決定し、その7倍量にします。例えば、BMI27で体重75kgの方で、SGLT2阻害薬、メトホルミン、DPP-4阻害薬の3剤にてA1cが目標値に達しない場合、体重当たり0.1単位で、7.5単位となり、イコデクは7.5×7=53となり10単位きざみのインスリンのため50単位か60単位で週1回自己注射します。7日間空腹時血糖値を下げる作用がありますが、投与3-4日後に空腹時血糖値を下げる効果が最大となり、7日後にはその効果が薄れてきて空腹時血糖値は3-4日後に比較し上昇してきます。イコデクの投与量調整には投与3-4日後の空腹時血糖値を見て10単位の増減をしていきます。空腹時血糖値が120mg/dL以下となってもA1cが目標に達しない場合には、ビッグミール時に超速効型インスリンを1回投与します。

またA1cが目標値に達しない場合には、上記の食事前の超速効型インスリンの回数を増やしていきます。

以上外来でのインスリン導入法につき説明いたしました。この方法は、4Tスタディーの結果を基に記載しています。

参考文献:Addition of biphasic, prandial, or basal insulin to oral therapy in type 2 diabetes. N Engl J Med 357(17):1716-1730, 2007

この記事は「わかりやすい病気のはなし」Web版のために、専門班が新たに執筆した原稿をもとに作成しています。