メタボリックシンドロームとは、ごく簡単に言うと、次の二つの特徴がある状態です。
特徴1 複数の病気が一人に重なり、動脈硬化が進む
脂質異常症※や高血圧や糖尿病という病気は、一人の人に、重なって起きることが少なくありません。そして、そのような状態では、それぞれの病気が相互に悪さを及ぼしあって、合併症が、とくに動脈硬化が早く進行してしまうのです(後述のグラフ参照)。
※高脂血症のみでなく、HDL-コレステロール低下も含めた血清脂質異常の呼び方です。
特徴2 それぞれの病気は軽症のことが少なくない
複数の病気が重なっているのだから、さぞかし、いろんな症状が現れるのかと思いきや、そうではなく、たいていは自覚症状がありません。それどころか、血圧や血清脂質(中性脂肪やコレステロール)や血糖の検査値も、それほど悪くないことが多いのです。
このため、検査値の異常があっても「軽症」だと判断してきちんと治療せず、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞の発作が起き、動脈硬化が進行していた事実に、初めて気づかされるということがあるのです。
なにが原因なの?
内臓脂肪の溜まり過ぎが最初の原因
脂質異常症や高血圧、糖尿病などを併発すると、動脈硬化が極めて早く進行することは、古くから知られていました。ただ、なぜ複数の病気が併発するのか、その理由がわかっていなかったのです。
しかし近年の研究によって、おおもとの原因は「内臓脂肪の過剰な蓄積」だということが、明らかになりました。運の悪い人が偶然、複数の病気を発病してしまうのではなく、原因は一つだったということです。
メタボリックシンドロームで問題になる動脈硬化とは、血管の壁が硬く変化して血管の内部が狭くなり、血液が流れにくくなる病気です。動脈硬化で血液の流れが途絶えると、そこから先へは酸素や栄養が行かずに細胞が死んでしまいます。これが心臓で起こるのが心筋梗塞、脳で起こるのが脳梗塞です。
円グラフは、日本人の死亡原因です。1位はがんですが、2位の心臓病と4位の脳血管疾患のほとんどは、動脈硬化による病気と考えられます。日本人の4人に1人以上は、動脈硬化で亡くなるということです。
棒グラフは、肥満、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症という動脈硬化の危険因子が重複した場合に、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)がどのくらい起きやすくなるかを調べた結果です。
冠動脈疾患を発症した人の過去10年間の検査値をさかのぼってみると、上記の危険因子を複数もっていた人が多いことがわかりました。とくに、危険因子が三つ以上あった場合、危険因子ゼロの人に比べて、約36倍もの頻度で冠動脈疾患が発症していました。
診断されるのは、どんなとき?
1 最初に、内臓脂肪の過剰な蓄積を確認する
ここまでお話ししたように、メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の溜まり過ぎが原因で複数の病気が併発し、動脈硬化が急速に進行しやすくなっている状態です。ですから、メタボリックシンドロームを診断するには、まず、内臓脂肪が過剰に溜まっていることを確認します。それには、お臍の位置でウエストサイズを測ります。ウエストサイズが男性は85cm以上、女性は90cm以上のとき、内臓脂肪が過剰に溜まっている状態と判断します(この基準の根拠については、後述のQ&Aをご参照ください)。
「脂肪が過剰に溜まっている」と聞くと、太っている人のことだと思いがちですが、実際にウエストを測るとわかるように、太っているように見えない人でも、この基準値を上回っていることがよくあります。いわゆる「隠れ肥満」です。メタボリックシンドロームは、このような隠れ肥満の人に少なくありません。
2 次に、複数の病気が起きているかを確認する
内臓脂肪の溜まり過ぎが確認できたら、次に、それによってからだに影響が現れているかどうかを確認します。血清脂質、血圧、血糖の検査値のうち、二つ以上に異常があれば、メタボリックシンドロームです。
血清脂質、血圧、血糖が高いときには、それぞれ、脂質異常症、高血圧、糖尿病という病気を診断されます。しかし、それらの病気の診断基準を満たさなくても、メタボリックシンドロームに当てはまることがあります。ここがポイントです。つまり、糖尿病などの病気ではなく、その「予備群」であっても、それが複数あるなら、動脈硬化の進行予防という点からみると、すでに手を打たなければいけない状態だということです。
| メタボリックシンドロームの診断基準 | |
|---|---|
| 内臓脂肪型肥満 | ウエストサイズが男性85cm以上、女性90cm以上 |
| 血清脂質 | 中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dL以上か、HDL-コレステロール40mg/dL未満 |
| 血圧 | 収縮期血圧130mmHg以上か、拡張期血圧85mmHg以上 |
| 血糖 | 空腹時血糖値110mg/dL以上 |
| 診断 | 内臓脂肪型肥満に加えて、3項目のうち2項目以上の異常があるとき |
内臓脂肪って、どんな悪さをしているの?
過剰に溜まった内臓脂肪は、なぜそんなに悪いのでしょうか。この項では、少し難しくなりますが、内臓脂肪がからだの中で、なにをしているのかを解説します。
肥満の二つのタイプ
食事をして体内に入ったエネルギーが、からだを動かして消費するエネルギーより多いと、余分なエネルギーが脂肪として蓄えられます。その脂肪は、溜まる場所によって、内臓脂肪と皮下脂肪の二つに分けられます。
内臓脂肪は、おなかの中の内臓周囲につく脂肪です。ですから、それが過剰に溜まった状態「内臓脂肪型肥満」では、おなかの出っ張りが目立ちます。このような太り方は、男性に多い「上半身肥満」と一致します(その体型からリンゴ型肥満とも呼ばれます)。
一方、皮下脂肪は全身の皮下に溜まりますが、とくにお尻や足につく脂肪が目立ちます。女性に多い「下半身肥満」の体型の人は、「皮下脂肪型肥満」ということです(洋ナシ型肥満とも呼ばれます)。
この二つのタイプの肥満のうち、さまざまな生活習慣病と関係が深いのは、内臓脂肪型肥満のほうです。
内臓脂肪は、エネルギーを貯蔵するだけではない
さきほど、「余分なエネルギーが脂肪として蓄えられる」と言いました。しかしこれは、脂肪の役割の説明として十分ではありません。実は、脂肪は単にエネルギーを貯蓄するだけでなく、数々のサイトカインを分泌しているのです。
サイトカインとはなにかと言うと、細胞で作られるさまざまな生理活性物質のことです。例えば、肝炎の治療にインターフェロンという薬が使われますが、これは、もともと肝炎ウイルスに感染した細胞が分泌するサイトカインです。脂肪細胞が分泌するサイトカインは何種類かみつかっていて、「アディポサイトカイン」と総称されています(アディポは脂肪という意味です)。
内臓脂肪が増えると、このアディポサイトカインの分泌に異常が起きます。インスリン(おもに血糖値を下げる働きをするホルモン)の働きを邪魔して血糖や血圧を高くしたり、血液を固りやすくして心筋梗塞や脳梗塞の発作を招く、「悪玉」のアディポサイトカインが増えます。その一方で、動脈硬化の進行を抑えたり、インスリンの働きを高める「善玉」のアディポサイトカインは少なくなります。
さらに、内臓脂肪からは、脂肪の一種の「遊離脂肪酸」が放出されるので、血清脂質が高くなります。
診断されたら、どうすればいいの?
基本は 過剰に溜まった内臓脂肪を減らすこと
メタボリックシンドロームに当てはまるなら、動脈硬化の進行を抑えるための対処・治療が必要です。その第一の方法は、複数の検査値異常のおおもとの原因である、過剰に溜まった内臓脂肪を減らすことです。「皮下脂肪は定期貯金、内臓脂肪は普通預金」と言われます。皮下脂肪は溜まるのも使うのも時間がかかる一方、内臓脂肪は溜まりやすく消費されやすいという意味です。つまり、幸いにも、内臓脂肪型肥満は解消しやすい肥満だということです。
目標は 体重よりウエストサイズを目安に
さまざまな病気の原因を比較的簡単に解消できるとなれば、なにもせずにいる手はありません。エネルギーを使って、せっせと内臓脂肪を減らしましょう。まずは、減量にこだわらずにウエストを細くすることが最初の目標です。ウエストが細くなれば、内臓脂肪が減ったということで、多くの検査値が同時に改善してきます。
方法は 一に運動、二に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ
からだを使うチャンスを見つける
今の社会は、自分でからだを動かす努力をしないと、運動量がどんどん減ってしまう世の中です。自動車が普及し、駅や街中の階段にはエスカレーターが設置され、自分の足をあまり使わずに移動できます。仕事の内容も昔と異なり、椅子に座ってパソコンを操作する時間が長くなっていると思います。
エスカレーターに乗らず階段を上る、車で5分の距離は歩いて行くといったように、毎日の生活の中で、できるだけからだを使う機会を見つけてください。
食事のとり方を見直しましょう
もちろん、運動と同時に食事の習慣の見直しも必要です。腹八分目、寝る前には食べない、油ものは少なくして野菜を多くとる、よく噛んでゆっくり食べる、お酒を飲み過ぎない──。あたり前のようなこういった「基本」を、しっかり続けることが大事です。
検査値が十分に改善しなければ、薬で治療
運動や食事の習慣を改めて内臓脂肪が減っても、十分に改善しない検査値が残ることもあります。その場合は、薬を使って治療します。
なお、メタボリックシンドロームと診断される前すでに、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの薬を処方されていた場合は、その薬物治療を続けながら内臓脂肪を減らしていきます。また、メタボリックシンドロームの診断基準には、LDL-コレステロールや食後血糖が入っていませんが、脂質異常症や糖尿病の患者さんの場合、それらもしっかりコントロールしてください。
注意点 年に一度は検査を受ける
もう一つのアドバイスは、「検査を欠かさない」ことです。メタボリックシンドロームはもとより、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの病気や動脈硬化さえも、自覚症状がほとんど現れません。
一度改善した検査値が、再び悪くなることもあります。動脈硬化を抑え心筋梗塞や脳梗塞の発作を防ぐには、そのような変化を早期発見することです。定期的に検査を忘れずに受けるようにしましょう。もちろん、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの治療を受けているのであれば、しっかり通院を続けてください。
そのほかのQ&A
メタボリックは「代謝」、シンドロームは「症候群」ですから、直訳すると代謝症候群です。しかし、代謝に関係ない高血圧も主要症状ですので、厳密には代謝症候群とは言えません。現在すでに、メタボリックシンドロームという言葉は世界中で使用され、国内でも定着しつつあるため、日本語には訳さず、英語の読みをそのまま使っています。
肥満による多くの悪影響の中で、動脈硬化に焦点を当て、より危険な状態を絞り込んだのが、メタボリックシンドロームです。肥満ではメタボリックシンドロームに該当しなくても、関節の病気、睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな健康被害が起こり得ます。
内臓脂肪の溜まり過ぎによる悪影響は、臍の位置でCTスキャンをした場合の内臓脂肪面積が100cm²以上のとき顕著です。本来なら、すべての人にCTスキャンを行うのがベストですが、それには膨大な手間とお金がかかるので、ウエストサイズに換算して平均を求め、男性85cm、女性90cmという値になりました。
内臓脂肪面積が100cm²以上でもウエストサイズが基準値より下の人もいますから、一概にそうとは言えません。とくに、血清脂質や血圧、血糖のうち二つ以上に異常があれば、メタボリックシンドロームと同じように注意したほうがよいでしょう。
この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ35『メタボリックシンドロームってなに?』(2013年1月発行)をもとに作成しています。