家庭医学書を見ると、多発性骨髄腫たはつせいこつずいしゅを「血液のがんの一つで予後不良」と解説していることがあります。きっと、古くなった内容を書き直す作業が、この分野の医学の進歩に追いついていないのでしょう。もちろん深刻な病気の一種には違いありませんが、私たち医療スタッフは今、多発性骨髄腫の治療法が年々良くなりつつあることを実感しています。また、がんとしては進行が遅い方なので、いろいろな治療を試す余裕があります。開発中の新薬などの明るい話題もたくさんあります。診断されたからといって、すぐに「予後不良なのか」とあきらめなければいけない病気では、決してありません。

それでは早速、病気の解説を始めましょう。

多発性骨髄腫を知るための基礎知識

血液の工場=骨髄の中の「形質細胞」のがん

多発性骨髄腫は、文字どおり「腫瘍しゅよう」が「骨髄」に「多発」する病気です。腫瘍とはがんのこと。骨髄とは、骨の内部を満たしている柔らかい組織のこと。その骨髄は全身の大きな骨の中にあるため、通常、骨髄腫は全身の骨髄に「多発性」に起こります。ここで、病気を知るうえでポイントとなる「骨髄」について、少し難しくなりますが詳しく解説しておきます。

からだの中を流れている血液には、赤血球や白血球、血小板などの「血球けっきゅう」と呼ばれる細胞が含まれていて、それらが酸素を全身に運んだり、細菌やウイルスを攻撃したり、出血した際に血を止めたりしています。それらの血球を作っている工場が、骨の中の骨髄です。

骨の内部の骨髄で造血幹細胞から白血球(リンパ球・単球や顆粒球)・赤血球・血小板が作られ、血液中でそれぞれ働くようす。リンパ節に移動したB細胞が形質細胞に変化し、一部は骨髄へ移動することを示した図
血液中の「血球」は骨髄で作られる。骨髄の中の形質細胞は免疫グロブリン(抗体)を作り、細菌やウイルスを攻撃する。一部の形質細胞は骨髄へ移動する。リンパ節に移動したB細胞は、形質細胞に変化する。T細胞や単球・顆粒球は、免疫グロブリン(抗体)とは別の方法で細菌やウイルスを排除する。赤血球は酸素を運び、血小板は出血した時に血を止める。多発性骨髄腫では、この形質細胞ががん化して骨髄腫細胞となり、役に立たない免疫グロブリン「Mタンパク」を大量に作り出す。一方、正常な白血球や、赤血球、血小板は減少する。

骨髄では最初に血球のおおもとである「造血幹細胞ぞうけつかんさいぼう」が作られ、それが少しずつ変化して赤血球や白血球などの血球となります。「形質細胞けいしつさいぼう」もまた造血幹細胞から変化した細胞で、細菌やウイルスを攻撃する「免疫めんえきグロブリン」(いわゆる抗体こうたい)を作ります。多発性骨髄腫は、その形質細胞ががん化して異常に増えてしまう病気です。原因はわかっていません。

Mエムタンパクが増加し、正常な血液成分は減少

がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)はさまざまな免疫グロブリン(抗体)ではなく、単一の(モノクローナルな)役に立たない免疫グロブリン「Mタンパク」を大量に作ってしまいます。多発性骨髄腫ではこのような骨髄腫細胞やMタンパクが増える一方で、正常な血球や免疫グロブリンは減少し、そのことが全身にさまざまな影響を及ぼします(後述)。

高齢者に多く、進行が比較的遅いことが特徴

「血液のがん」というと、白血病がよく知られています。白血病は若い人にも発病し進行が速い病気です。多発性骨髄腫も血液のがんですが、高齢者に多く、比較的進行が遅いという特徴があります。多発性骨髄腫であっても、進行がゆるやかで症状がない場合は、しばらく経過を診るだけのこともあります。

病気のタイプと経過・症状

多発性骨髄腫とそれに関係する病気(状態)は、以下のようにタイプ分けされます。

多発性骨髄腫と、それに関係する病気(状態)

多発性骨髄腫…骨髄腫細胞やMタンパクの影響が症状として現れている状態で、治療が必要です。

くすぶり型多発性骨髄腫…血液中のMタンパクが増加しているものの、症状は現れていない状態です。多発性骨髄腫の前段階と考えられています。症状はないために通常は治療対象になりません。ただし、詳しい検査の結果、多発性骨髄腫に進行する率がかなり高い状態だとわかった場合には、この段階から治療を検討することもあります。また、治療対象でないと判断された場合でも、こまめな検査が必要です。

MGUSエムガス※…Mタンパクの増加は「くすぶり型多発性骨髄腫」よりも軽度で、症状はなく、健康診断で偶然発見されたりします。治療は必要ありません。ただし頻度は少ないながら多発性骨髄腫などに進行することもあるため、定期的な検査が必要です。

孤立性こりつせい形質細胞腫…検査で骨や骨以外の組織に形質細胞(骨髄腫細胞)の腫瘍が見つかるものの、症状は現れません。ただし、多発性骨髄腫に進行する可能性もあるので定期的な検査が必要です。

※MGUSとは、「意義不明の単クローン性γガンマグロブリン血症」という意味の医学英語の頭文字です。

腰痛や貧血、易感染いかんせんほか、多くの影響が現れる

多発性骨髄腫では次のような症状が現れてきます。

骨がもろくなる…骨髄腫細胞が破骨はこつ細胞(骨を壊す細胞)を刺激するために、骨がもろくなります。その影響で骨折しやすくなり、腰痛や背中の痛みが現れたりします。

貧血…からだの隅々に酸素を運搬している赤血球が減ることで貧血になり、動悸どうき・息切れ、倦怠感けんたいかんが現れたりします。

腎臓の機能低下…腎臓は血液をろ過して不要物を排泄する臓器です。骨髄腫細胞から産生されるMタンパクや、骨から溶け出したカルシウムのために、腎臓の機能が低下します。

高カルシウム血症…骨に貯蔵されているカルシウムが血液中に溶け出てきて、その濃度が高くなります。その影響で、吐き気、便秘、喉の渇きなどの症状が現れたりします。

易感染…正常な白血球・抗体が減る影響で、感染症にかかりやすくなります。

その他…出血した時に血液を固める血小板が減ることで、血が止まりにくくなります。その一方で、血液中のMタンパクが増えることで血液の粘性が高くなり、血行を妨げることもあります。また、Mタンパクが変化してできるアミロイドという物質がいろいろな臓器に沈着し、からだの諸機能に影響が現れたりします。

がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)が骨をもろくして腰痛・背中の痛み・骨折・高カルシウム血症を招き、Mタンパクが腎臓の機能低下やアミロイドによる臓器障害を招くこと、白血球・赤血球・血小板の減少がそれぞれ易感染・貧血・血が止まりにくい状態につながることを示した図
多発性骨髄腫の主な症状

治療の流れ

それでは治療法に話を進めましょう。

多発性骨髄腫と診断されてから治療をスタート

多発性骨髄腫の治療は、自覚症状や臓器障害(例えば腎臓の機能低下など、前述の症状)が現れて、多発性骨髄腫だと診断されてから始まります。前述のようにMタンパクが増える状態にはいくつかのタイプがあるのですが、自覚症状や臓器障害がなくて、検査でMタンパクの増加が見つかるだけの状態なら、通常は治療しません。それには次のような背景があります。

固形がん(内臓のがんのように、がん細胞が部分的に固まっているがん)であれば、早期発見して手術や抗がん剤で治療するのが原則です。しかし多発性骨髄腫は治療対象が全身の骨であるため手術は適しません。また、くすぶり型多発性骨髄腫やMGUSが必ず多発性骨髄腫に進むわけではなく、そのような段階で強力な抗がん剤を使っても副作用だけが現れてしまい、からだを傷めることがあるため、治療は始めません。

まずは寛解を目指す

いったん治療がスタートすると、最初の目標として「寛解かんかい」を目指します。

寛解とは、完全に治ったと判断するのが難しく再発しやすい病気の治療に使われる言葉で、治療によって検査値や症状が落ち着き、とりあえず「いったんは治った」という状態です。

多発性骨髄腫の場合、Mタンパクや骨髄腫細胞が確認できなくなった時点で「寛解に至った」と判定されます。寛解に至らない場合でも、なるべく寛解に近い状態(部分寛解)を維持できるよう治療を継続します。新しい薬の登場で、寛解の到達率、部分寛解の維持率はどんどん向上しています。

若い患者さんでは造血幹細胞移植を検討

寛解後にその状態を長続きさせる方法として、造血幹細胞移植が検討されます。寛解に至った後、患者さん本人の末梢血中の造血幹細胞を薬で増やして取り出しておき、大量の抗がん剤や放射線を使って骨髄腫細胞をさらに徹底的に抑えてから、保存しておいた造血幹細胞を再び体内に戻すという方法です。からだに大きな負担がかかるので、だれにでも可能なわけではなく、おおむね65歳以下の体力のある患者さんに行われます。

病気の症状には対症的に支持療法しじりょうほう

寛解を目指す治療のほかにも、先に挙げた症状を改善するための治療も行います。例えば、骨折予防や高カルシウム血症の治療のために骨の吸収を抑える薬、赤血球を増やして貧血を改善する薬、白血球を増やして感染症への抵抗力を増やす薬などが症状に応じて使われます。「支持療法」と呼ばれるこれらの治療によって症状が良くなれば、寛解を目指す治療をより強力に行えます。

定期的な検査を続けることが重要

寛解に至ったあとは、必要に応じて支持療法を継続します。寛解を保つために維持療法が行われることもあります。年月がたつと、この病気はかなりの確率で再発してきますので、寛解後も定期的な検査を受けることが大切です。再発がわかった時点で再び治療を開始します。

Mタンパクは増えていても多発性骨髄腫ではない状態は経過観察とし、症状が現れたら抗がん剤による治療と支持療法を開始して寛解・部分寛解を目指し、65歳以下で体力があれば移植治療を、適さない場合は経過観察または維持療法を続けるという治療の流れを示した図
多発性骨髄腫の治療の流れ

免疫調節薬(IMiDs)について

多発性骨髄腫の薬の1つである免疫調節薬の中には、かつて睡眠薬として発売され、妊娠中に服用した女性の胎児に奇形が生じるという悲惨なケースが報告されたものもあります。この薬剤は、一度販売中止になりましたが、その後、多発性骨髄腫に効果があることがわかり、再び使用が認められました。ただし、二度と薬害を繰り返さないため、極めて厳重な管理手順に従って処方されます。もちろん妊娠している、あるいはその可能性がある女性には使われません。これは他の免疫調節薬も同じです。患者さんにこうした背景を理解いただき、決められた方法を守りながら使われます。

検査について

多発性骨髄腫の治療ではさまざまな検査で症状を把握します。なかには一般の方に馴染みの少ない検査もあります。

骨髄穿刺せんし 局所麻酔をして骨髄に針を刺し、少量の骨髄を採取します。それを顕微鏡で調べ、骨髄腫細胞の量などから病気の状態、寛解後の再発の徴候などを把握します。

Mタンパク検査 血液または尿を採取しMタンパクがないかを調べます。病気の診断に使われるほか、治療効果の評価にも必要です。一般的に、Mタンパクが確認できなくなったら寛解に至ったと判断されます。

フリーライトチェーン Mタンパク検査では病状の把握が難しいタイプの多発性骨髄腫もあります。そのような場合にも、フリーライトチェーン(免疫グロブリンの遊離軽鎖)を測定することで病状を正確に知ることができます。

生活上の注意点〜自分で実践する支持療法〜

最後に、多発性骨髄腫に対して患者さんご自身ができることをお話しします。

感染症の予防に手洗い・うがい

易感染状態からからだを守るため、マスク着用、こまめな手洗い・うがいを心掛けましょう。

骨を丈夫にする適度な運動

骨に適度な刺激がかかる運動を続けると、代謝が高まり骨の丈夫さを保てます。かといって無理な動作は骨折の危険もあるので、速歩や軽いジョギングなどがお勧めです。ストレス解消にもなり、治療への意欲につながることでしょう。

腎臓をいたわるための水分摂取

脱水状態になると腎臓の負担が増え、また血液がドロドロになりやすくなるので、医師から制限の指示がない限り、ふだんから水を多めにとるようにしてください。

まとめとして

冒頭で書いたように、日進月歩の医学の中でも、特に近年の多発性骨髄腫の治療は進歩が著しい分野です。ですから、みなさんにも希望をもって治療を受け、生活をエンジョイし続けていただきたいと思います。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ51『多発性骨髄腫』(2019年10月発行)をもとに作成しています。