糖尿病は、合併症を防ぐために治療する

糖尿病は、初めは痛みや苦しみは何もありませんが、高血糖※1が続いていると、合併症※2が全身に起きてしまいます。ですからまず食事療法や運動療法を行い、それでもなお血糖値が高い場合には、薬物療法を追加します。この小冊子パンフレットでは、血糖値を下げる飲み薬について説明しますが、その前に、血糖値が上がる仕組みについて説明します。

※1 高血糖:血液中のブドウ糖の濃度「血糖値」が高い状態。
※2 合併症:例えば、失明に至る網膜症、人工透析が必要になる腎症、手足のしびれなど全身に症状が現れる神経障害、命にかかわる心筋梗塞・脳卒中などがあります。

高血糖の三大原因

食事をとると、食べ物の中に含まれている炭水化物(糖質)が消化されブドウ糖になって吸収されるので、血糖値が上昇します。健康な人では血糖値が上がり始めると、すい臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンが分泌されます。インスリンは、肝臓からブドウ糖が放出されるのを抑え、肝臓や筋肉組織でのブドウ糖取り込みを高めます。それによって食事2時間後には、食事をとる前の血糖値に戻ります。

高血糖の原因1 インスリン分泌量の不足

すい臓から分泌されるインスリンの量が少ないと、高血糖になります。

高血糖の原因2 インスリン感受性の低下

インスリンの分泌量は足りていても、インスリンが作用する細胞の感受性が低下した「インスリン抵抗性」と呼ばれる状態では、インスリンの作用が不足し、高血糖になります。

高血糖の原因3 グルカゴン分泌が抑制されない

すい臓は血糖値を下げるインスリンのほかに、血糖値を上げるグルカゴンも分泌しています。本来、グルカゴンは血糖値が低いときにたくさん分泌され、血糖値が高いときには分泌されないのですが、その抑制がきかないと高血糖になります。

あなたが飲んでいる薬の種類を確認してください

薬の種類すい臓のインスリン分泌を刺激するインスリン抵抗性を改善するすい臓のグルカゴン分泌を抑える腸でのブドウ糖吸収を抑える肝臓からのブドウ糖放出を抑える腎臓でのブドウ糖再吸収を抑える
スルホニル尿素薬◎─────
速効型インスリン分泌促進薬○─────
α-グルコシダーゼ阻害薬───◎──
ビグアナイド薬─○─○◎─
チアゾリジン薬─◎──○─
DPP-4阻害薬○─◎───
SGLT2阻害薬─────◎

糖尿病治療薬の働くおもな場所

肝臓・すい臓・小腸・腎臓・筋肉・内臓脂肪のそれぞれで、糖尿病治療薬がどのように働くかを示した全身の図
臓器・組織からだでの働き働く薬とその作用
肝臓インスリンの働きを介し、ブドウ糖を取り込みグリコーゲンとして貯蓄する/グルカゴンの働きを介し、ブドウ糖を新生して血糖として放出するビグアナイド薬・チアゾリジン薬…ブドウ糖の新生・放出を抑制する
すい臓インスリンを分泌する/グルカゴンを分泌するスルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・DPP-4阻害薬…インスリン分泌を促す/DPP-4阻害薬…グルカゴン分泌を抑制する
小腸炭水化物を消化しブドウ糖として吸収するα-グルコシダーゼ阻害薬…炭水化物の消化吸収を遅くする
腎臓ブドウ糖を再吸収するSGLT2阻害薬…ブドウ糖の再吸収を抑制する
筋肉インスリンの働きを介し、ブドウ糖(血糖)を取り込みエネルギー源として利用するビグアナイド薬・チアゾリジン薬…ブドウ糖の取り込みを促進する
内臓脂肪インスリン作用阻害物質を放出するチアゾリジン薬…インスリン作用阻害物質の放出を減らす

スルホニル尿素薬(SU薬)

インスリンの分泌を促す

すい臓に作用して、インスリンの分泌を促します。分泌されたインスリンは、肝臓に働いてブドウ糖の放出を抑制し、グリコーゲン(ブドウ糖を貯蓄できる状態に変化したもの)合成を増やします。また、全身の筋肉や脂肪組織に働きブドウ糖の利用を盛んにし、筋肉ではグリコーゲンが合成され、脂肪組織ではブドウ糖から脂肪が合成されます。このようにして血糖値が下がります。

なお、SU薬を飲み続けると、次第に体重が増える人がいます。体重増加は糖尿病の治療に悪影響を与えますから、食事に気をつけ体重コントロールを心掛けましょう。

◆服用時間…1日1回の場合は朝、1日2回の場合は朝夕、食前または食後に服用します。

◆おもな副作用…薬の作用が強く現れすぎたときに、低血糖が起こります。そのほか、肝機能障害、貧血、発疹などがあります。

速効型インスリン分泌促進薬

服用後の短時間に限ってインスリン分泌を増やす

SU薬と同じようにインスリン分泌を促す薬ですが、服用後すぐに作用が現れ、作用時間が短いという特徴があります。このため、食事の前に服用することで、食後の高血糖が改善されます。

◆服用時間…毎食ごとに、食事の直前に服用します。

◆おもな副作用…作用時間が短いので食間に低血糖が起きることは少ないですが、服用後に食事をとらないと低血糖の危険があります。低血糖以外には、腹部膨満感、軟便、かゆみ、肝機能障害などが報告されています。

α-グルコシダーゼ阻害薬

消化吸収を遅らせ食後の血糖値上昇を穏やかにする

小腸での炭水化物の消化を抑え、ブドウ糖の吸収を遅らせることで、食後の血糖値上昇を抑制する薬です。インスリンの分泌量や感受性とは関係なく効果を発揮するのが特徴です。

糖尿病では、食直後のインスリン分泌が少ないために食後高血糖になります。この薬を服用すると、食後にゆるやかに血糖値が上昇するので、高血糖の山がインスリン分泌のタイミングと一致し、高血糖が改善されます。

薬を飲まないと炭水化物が十二指腸・空腸で急速に消化吸収されて血糖値が急に上がるのに対し、食前に薬を飲むと腸全体でゆっくり消化吸収され血糖値の上昇が穏やかになることを示した図
薬を飲まない状態(図の左上) 炭水化物は十二指腸・空腸で消化吸収されるので、血糖値が急に上がります。
食前に薬を飲むと…(図の右下) 炭水化物は腸全体で消化吸収され、血糖値の上昇が穏やかになります。しかし、未消化の炭水化物が大腸で分解され、放屁が増えるなどの症状が現れることがあります。

◆服用時間…毎食ごとに、食事の直前に服用します。

◆おもな副作用…食べ物の消化吸収が遅くなるので、おなかが張ったり、放屁(おなら)が多くなったり、腹痛・下痢・便秘が増えることがあります。また、肝機能障害を起こすこともあります。

インスリンの分泌量は増えないので、この薬単独では低血糖は起こりません。血糖値を下げるほかの薬も服用(または注射)している場合には、低血糖が起こることがあります。その場合には砂糖でなく、ブドウ糖を飲まないと回復が遅れます。

ビグアナイド薬(BG薬)

肝臓での糖新生・糖放出を抑えて血糖値を下げる

BG薬は、肝臓を中心としたいくつかの臓器・組織に働きかけて血糖値を下げる薬です。

肝臓には、アミノ酸・脂肪・乳酸からブドウ糖を作り、それを血液中に放出する働きがありますが、BG薬はこの作用を抑えます。そのほか、筋肉や脂肪組織でのブドウ糖の取り込みを高めるというインスリン抵抗性改善作用、腸管からのブドウ糖の吸収を抑える作用もあります。インスリンの分泌は増やさないことから、体重を増加させず、低血糖も起こしにくいという特徴があります。

BG薬が肝臓からのブドウ糖の放出と腸からのブドウ糖の吸収を抑え、筋肉や脂肪でのブドウ糖の取り込みを高めるようすを示した図

以前、現在は使われていないBG薬で副作用が問題になり一時期、治療に十分な量を使用できないことがありましたが、今の薬は再評価されて、十分量を使えるようになっています。

◆服用時間…1日2回または3回(指示された回数)食後に服用します(食前に服用できる薬もあります)。

◆おもな副作用…食欲不振、消化不良、下痢などの消化器症状が現れることがあります。まれに乳酸アシドーシスという治療が必要な副作用を起こすことがあります。吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、筋肉痛、呼吸が苦しいなどのひどい症状があるとき、または回復する気配がないときは、できるだけ早く受診しましょう。また、発熱時や下痢などで脱水のおそれがあるときには飲むのをいったんやめて、医師または薬剤師に相談してください。

低血糖はBG薬だけを服用している場合はあまり起こりません。

チアゾリジン薬

インスリンの感受性を高める

筋肉でのブドウ糖取り込みを促すほか、肝臓からのブドウ糖放出を抑制する作用で血糖値を下げます。また、内臓脂肪型肥満の人(おなかに過剰な脂肪がついている人)は、脂肪細胞のサイズが大きく、そこからはインスリンの効きを悪くする物質が放出されますが、この薬は、大きな脂肪細胞を減らし小さな脂肪細胞を増やすことでインスリンを効きやすくする、と考えられています。このようなことからこの薬は、インスリン抵抗性のために高血糖になっている太り気味の患者さんに、多く処方されます。

◆服用時間…1日1回朝食前か朝食後に服用します。

◆おもな副作用…浮腫(むくみ)が現れ体重が急に増えることがあります。この副作用は、女性に現れやすい傾向があります。浮腫がひどくなると心臓に負担がかかるので、心臓に病気がある人はとくに注意が必要です。

また、肝機能障害を起こすことがあるので、服用し始めてしばらくは、定期的に肝機能検査を受けながらの服用となります。この薬単独では低血糖は起こりにくいですが、血糖値を下げるほかの薬と併用している場合は気をつけてください。

DPP-4阻害薬

高血糖のときにだけインスリン分泌を促す

食後に十二指腸や小腸から分泌されるインクレチンというホルモンがあります。インクレチンは高血糖のときだけ、すい臓からのインスリン分泌を促しグルカゴン分泌を抑えます。糖尿病の人ではインスリン分泌力は残っているのにインクレチンの働きが少ないため、結果的に高血糖になっていることがあります。DPP-4阻害薬は、体内でインクレチンが分解されるのを防ぎ、その作用を十分発揮させるように働きます。また、すい臓や脳・心臓を保護するなど、多くの作用が報告されています。

◆服用時間…1日1回または2回服用します。1週間に1回服用するタイプもあります。

◆おもな副作用…血糖値が高いときにだけインスリン分泌を促すため、この薬だけを服用している場合は、低血糖はあまり心配いりません。ただし、インスリン分泌を促すほかの薬(おもにSU薬)も飲んでいると、思わぬ低血糖が起きることがあります。副作用は少ない薬ですが、比較的新しい薬なので、新たに副作用がみつかる可能性も考えられます。

SGLT2阻害薬

尿糖の排泄を増やす

腎臓は血液から不要な物をろ過して(取り除いて)尿として排泄しています。ろ過の最初の段階で作られる尿(原尿)にはまだからだに必要な物も残っていて、それらは腎臓で再吸収され血液中へ戻ります。ブドウ糖も大切な栄養素なので再吸収されます(SGLT2はこの再吸収を助ける役割をします)。SGLT2阻害薬はブドウ糖の再吸収を阻害することで、過剰な糖を尿に排出し、血糖値を下げる薬です。

◆服用時間…1日1回朝食前か朝食後に服用します。朝食前後でなくてもよい薬もあります。

◆おもな副作用…トイレの回数が多くなり尿の量が増える、のどが渇くなど、脱水になりやすいため、夏場や高齢者はとくに注意して水分をとるようにしてください。発熱時や下痢などで脱水のおそれがあるときには飲むのをいったんやめて、医師または薬剤師に相談してください。このほか膀胱炎などの尿路感染症(とくに女性)が起こることもあります。比較的新しい薬なので、新たに副作用がみつかる可能性も考えられます。なお、低血糖はSGLT2阻害薬だけを服用している場合はあまり起こりません。

糖尿病の治療薬で起こる「低血糖」とは

薬の作用が強く現れすぎて、血糖値が正常範囲よりも下がってしまうのが低血糖です。低血糖状態では、脳の主要なエネルギー源であるブドウ糖が不足して、脳の働きが悪くなるので、的確な判断・行動ができなくなります。とくに車の運転中はすぐに対処しないと危険です。

低血糖の症状

手足の力が抜ける・だるい/物がぼやけて見える・二重に見える/動悸どうき/手足のふるえ/冷汗/頭痛/イライラする・怒りっぽくなる/千鳥足になる/ろれつが回らない/意識がもうろうとなる/昏睡こんすい

低血糖を経験したときは、時刻や状況などを書きとめておき、次の受診の際に医師に伝えてください。

低血糖の予防と治し方

食事を抜かず、なるべくいつも同じ時刻に食べる/いつもブドウ糖や砂糖を持っていること(とくに運動をするときは忘れずに)/症状が現れたら、すぐにブドウ糖や砂糖をとること。ジュースやごはん、パン、果物でも効果はありますが、回復に時間がかかります。一番速く効くのはブドウ糖です。とくにα-グルコシダーゼ阻害薬を服用している人は、ブドウ糖以外ではなかなか回復しません。

低血糖はいつ起きるかわからないので、ブドウ糖や砂糖を自宅内の何箇所か所定の場所に、いつも置いておくようにしましょう。また外出時には、すぐに取り出せるようにして携帯してください。持っていないときに低血糖が起きたら、ジュース(カロリーオフでないもの)など、糖の入ったものを飲むとよいでしょう。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ21『糖尿病の飲み薬』(2021年9月発行)をもとに作成しています。