腎臓病には「治る病気」と「治らない病気」の二つがあります。治る腎臓病は一般的に腎臓の働きが急速に悪化する「急性の病気」で、子どもや若い人がかかりやすく、入院治療などにより短期で回復します。一方、成人後に発病する腎臓病は、何年ものあいだ自覚症状がなく、腎臓の働きが徐々に悪化していく「慢性の病気」が多く、完治はしにくい病気です。

腎臓の働きが低下しても、今は透析療法があるので生命の危険はありません。しかし、腎機能の悪化によって腎臓病以外の病気(脳卒中や心筋梗塞など)が起きやすくなりますし、透析を続けながらの生活は不自由が多いものです。ですから腎臓の病気を指摘されたら、たとえ自覚症状がなくても、病気の進行を抑えて透析開始を先延ばしするための治療を行います。

食事療法と薬物療法をしっかり気長に続けましょう

慢性の腎臓病は日々の治療継続が大切

「治らない」タイプの腎臓病でも毎日しっかり治療を続ければ、病気の進行を抑えることができます。その手段として、薬物療法と食事療法があります。この二つは、どちらか一つを行えばよいのではなく、両方をきちんと同時に続けてこそ、より大きな効果を発揮します。

この小冊子パンフレットでは、慢性の腎臓病の人が透析開始を先延ばしするための食事療法について解説していきます。

低蛋白食群と非制限食群の糸球体ろ過率の推移を示すグラフ。蛋白摂取量を抑えた低蛋白食群は18か月後もろ過率があまり低下していないが、非制限食群は大きく低下している

食事療法と薬物療法は腎臓病治療の「車の両輪」

蛋白摂取量を抑えたグループと通常の食事を続けたグループに分け、1年半にわたり腎臓の働きを追跡した結果です。蛋白摂取量を抑えたグループでは、糸球体ろ過率(数値が高いほどよい)があまり低下していないことがわかります。〔N Eng J Med 1989;321:1773-1777〕

腎臓病食事療法の基礎

塩分をできるだけ控える

塩分を多くとると体内に水分が溜まり血液量が増え、血圧が高くなって腎臓に負担をかけます。高血圧は腎臓病の進行を速める重大な危険因子です。腎臓病の進行防止のためにはできるだけ塩分摂取量を減らしたほうがよく、1日6g未満が目安です(病状によって異なるので、医師に相談してください)。

蛋白質の摂取を抑えつつエネルギーは十分確保する

蛋白質は体内のさまざまな組織で利用される不可欠な栄養素ですが、利用されたあとは最終的に窒素化合物(尿素窒素)になります。尿素窒素は腎臓でろ過されて尿の中に排泄されるのですが、蛋白質を多くとると腎臓の仕事量が増えるので腎臓に負担がかかり、病気の進行を早めてしまいます。

また腎臓病が悪化してくると、尿毒症で透析が避けられない状態になったりします。このような事態を防ぐために、病状に応じて蛋白質の摂取量を減らす食事療法を行います。

ただし単に蛋白質の摂取量を減らすだけでは身体活動を維持するためのエネルギーが不足してしまいます。そのため蛋白質を減らした分はほかの栄養素(炭水化物や脂質)を増やして、必要なエネルギー量を十分確保しなければいけません。摂取エネルギーが少ないと、体内の蛋白質(筋肉など)が分解されてエネルギー源として利用されます。そうすると蛋白質を食べたのと同じになってしまい、せっかくの食事療法の意味がなくなるばかりでなく、栄養状態が悪化します。

1日にどのくらい蛋白質をとってよいか、どのくらいエネルギーを摂取すべきかは、主治医がそれぞれの患者さんの検査データなどから判断して、個別に指示を出します。

カリウムやリン摂取の制限

腎臓の働きが低下してくると、血液中のカリウムが排泄されずにその濃度が高くなります。血液中のカリウムが多くなると、心臓の筋肉に影響を及ぼし、危険な不整脈や心停止を起こしかねません。また、腎臓からリンが排泄されずに血液中のリンが増えることがあり、その場合は骨がもろくなったり、貧血になったり、動脈硬化の進行を速めたりします。

ただし、カリウムやリンを多く含む食品は蛋白質を多く含む食品とだいたい一致していますから、蛋白質の摂取制限をしっかり守っていれば、カリウム・リンの値が異常に高くなることはあまりありません。しかし薬の影響でそれらの検査値が高くなるケースもあり、その場合は食事療法に工夫を加えます。

どのように食事療法を覚えるのでしょうか?

さて、少し難しい話が続きましたが、ここからは食事療法はどのように進めるのかをお話しします。

①ふだんの食事の栄養・エネルギー量を知る

まず、あなたが食べたものの記録をとってください。初めは簡単なメモ程度で構いません。慣れてきたら秤を使って食品の重量を量って記入します。通院の際にはそのメモや記録用紙を管理栄養士に見せ、食事のエネルギー量や蛋白摂取量を計算してもらいましょう。

②どこを変えればよいかを把握する

主治医が指示した塩分・蛋白質・エネルギー量にするにはどうすればよいのか、管理栄養士があなたのメモ・記録用紙を見てアドバイスしますので、それを守ってください。①と②をしばらく繰り返すうちに、蛋白質がどのような食品に多く含まれていて、どのように食べればよいのかなどが、段々わかってくるはずです。

③食事療法の効果をチェック

食事記録から摂取内容を確認し、血液検査や蓄尿検査(1日分の尿を溜めておき、その中の尿素窒素やナトリウム量を調べる)を行うことで、食事療法がしっかりできているかどうか、病気の進行を抑えられているか否かをチェックします。

④問題点を見つけて直していく

③の結果から浮かび上がった食事療法の問題点を一つずつ解決していきます。このとき、食事療法の参考書(食品成分表など)を見て食品中の塩分量や蛋白質量を正確に知り、秤を使って料理するといった努力が必要です。

このようなことは、最初のうちは「難しい」「面倒だ」と感じるかもしれません。しかし、こうした作業を繰り返すことで徐々に、理想的な食事療法ができるようになります。

食事療法の実践テクニック

減塩に低蛋白、そして十分なエネルギーを確保するための実践的な情報を紹介しましょう。

塩分の減らし方

ほとんどの食品に塩分が含まれていますから、塩やしょうゆ、みそなどをまったく使わずに料理した食事でも1日2gは身体に入ってきます。調味料として使えるのはそれを除いた分です。計量スプーンで量り、摂取量を守りましょう。

減塩のコツ
  1. 調味料は計量スプーンで量りながら使う
  2. しょうゆやソースは小皿に入れて直接つける
  3. 酢・レモン・ゆずなどの酸味を利用
  4. わさび・マスタード・唐辛子などの香辛料を利用
  5. しそ・みつば・パセリ・ミントなどの香味野菜を利用
  6. 揚げ物・焼き物の香ばしさを料理に生かす
  7. どの料理にも味付けするのではなく、一品を選んでそれにしっかり味付けする
  8. 加工食品はなるべく避ける
ナトリウム量から塩分量を計算する方法

食品の包装に印刷されている栄養成分値のナトリウム量を次の式にあてはめて計算すると、塩分量がわかります。

ナトリウム(mg)×2.54÷1000=塩分量(g)

蛋白質を減らし、エネルギーを十分とるには

蛋白摂取制限が緩やかな場合(1日0.9g/kg程度)は、まず蛋白質含量の多い食品を覚えてそれを控え目にし、かわりに炭水化物や脂質の食品を多めに食べるといった、わりと簡単な方法でできます。また、主食を治療用特殊食品※にかえるだけでも達成できます。

より厳格な蛋白摂取制限が必要な場合(1日0.6〜0.7g/kg程度)は、食品中の蛋白質含量とエネルギー量を計算しながら料理する必要があります。蛋白制限だけに気をとられてエネルギー量が減ってしまいがちになるので、エネルギー量に十分配慮してください。エネルギー量は、年齢や体格、仕事内容・時間、性別などで異なりますが、1日あたり30〜35kcal/kg程度となります。

蛋白質を抑えてエネルギー量を確保するには、治療用特殊食品の使用が不可欠です。なお、油脂類はほとんど蛋白質を含みませんが、過剰摂取は動脈硬化性疾患の危険因子となるので注意してください。

※治療用特殊食品:病気の予防・治療・コントロールのために、特定の目的をもって作られた加工食品のことです。腎臓病のための治療用特殊食品としては、エネルギー調整食品、蛋白質調整食品、食塩調整食品などがあります。管理栄養士と相談のうえ、利用してください。

カリウムについて

カリウムはほとんどの食品に含まれていますが、とくに次の表の食品には注意してください。

また、肉や魚などのおかずとなる蛋白質食品にも多く含まれているので、蛋白質の摂取量をきちんと守りましょう。なお、野菜やいも類などは大量の水でゆでたり、水にさらすとカリウムを減らせます。

カリウムを多く含む食品

分類食品例
いも類さといも、大和いも、さつまいも、じゃがいも、など
ナッツ類アーモンド、ピーナッツ、カシューナッツ、など
種実類栗、銀杏、など
豆類きなこ、納豆、大豆、あずき、など
野菜、海藻、フルーツ、野菜ジュース、黒砂糖
ドライフルーツ干しあんず、干しぶどう、干しがき、など

リンについて

リンを多く含む食品は蛋白質も多く含みます。つまり、蛋白質摂取量が増えるとリンも過剰になります。蛋白質量を守ることが第一です。

蓄尿検査からの摂取蛋白質量の求め方

蛋白質の摂取量は蓄尿検査から、次の式で推測できます。ただし、浮腫があったり尿量が不正確な場合はあてはまりません。

[尿中尿素窒素(mg/dL)×1日尿量(dL)+31×体重(kg)]×0.00625=蛋白摂取量(g/日)

蛋白質の「質」の違い

蛋白質はアミノ酸で構成されています。アミノ酸には体内で合成できるものとできないものがあって、後者は「必須アミノ酸」といい、食べ物からとらなければなりません。必須アミノ酸を多く含む蛋白質は「良質の蛋白質」と呼ばれ、肉や魚などの動物性蛋白が該当します。蛋白摂取制限による食事療法でも、動物性蛋白はなるべく減らさないようにしたいものです。

1800kcal蛋白質40gの献立の例(治療用特殊食品を利用した場合としない場合)

献立中の太字は、治療用特殊食品を使用した場合に変わる食品や分量を示しています。

治療用特殊食品を使用しない場合治療用特殊食品を使用した場合
朝 食パン(8枚切2枚)
 いちごジャム20g(大さじ山もり1杯)
サラダ
 ゆで卵25g(1/2コ)、キャベツ30g、キュウリ20g、トマト30g、はるさめ15g、マヨネーズ20g(大さじ山もり1杯)
紅茶
 紅茶150cc、さとう10g
低蛋白1/3パン2枚
 いちごジャム20g(大さじ山もり1杯)
サラダ
 ゆで卵50g(1コ)、キャベツ30g、キュウリ20g、トマト30g、はるさめ10g、マヨネーズ10g
紅茶
 紅茶150cc、さとう5g
昼 チャーハン
 米飯230g、焼豚15g、グリーンピース5g、玉ネギ30g、ニンジン20g、油15g、食塩1g、しょうゆ5g
大根サラダ
 大根50g、かいわれ大根5g、フレンチドレッシング10g
フルーツ(オレンジ)60g
のみもの(コーラ)200cc
チャーハン
 低蛋白米飯180g、焼豚30g、グリーンピース5g、玉ネギ30g、ニンジン20g、油15g、食塩1g、しょうゆ5g
大根サラダ
 大根50g、かいわれ大根5g、まぐろ水煮缶(シーチキン)15g、フレンチドレッシング10g
フルーツ(オレンジ)60g
のみもの(コーラ)200cc
夜 米飯200g
あじの塩焼き
 あじ40g、食塩0.5g、大根30g、しょうゆ3g
煮物
 さといも50g、ニンジン30g、こんにゃく50g、さとう5g、しょうゆ7g
みつばのお浸し
 みつば50g、えのきだけ20g、しょうゆ3g
フルーツ(グレープフルーツ)100g
低蛋白米飯180g
あじの塩焼き
 あじ70g、食塩0.5g、大根30g、しょうゆ3g
煮物
 さといも50g、ニンジン30g、こんにゃく50g、さとう5g、しょうゆ7g
みつばのお浸し
 みつば50g、えのきだけ20g、しょうゆ3g
フルーツ(グレープフルーツ)100g
  • 低蛋白パンを使用し、卵が1/2から1個になります
  • 低蛋白米飯を使用し、焼豚が30gになります
  • 低蛋白米飯を使用し、シーチキン15gが追加できます
  • 低蛋白米飯を使用し、あじが70gになります

Q&Aコーナー

腎臓病では水分の摂取量を制限する必要もあると聞きましたが、それはどんな場合ですか?

腎臓の働きが低下してむくみが現れたり尿量が減ってくると水分摂取制限が必要となり、医師が指示します。それまでは、塩分摂取制限さえ守っていれば大量に水分をとることはあまりないので、心配いりません。

蛋白質を減らして炭水化物や脂質を増やすと、血糖値や中性脂肪・コレステロール値が高くなったりしませんか?

血糖値への影響を抑えるには、砂糖や果物などの血糖値をすぐに上げる糖類よりも、でん粉などの血糖値の上昇が穏やかな糖類を中心に摂取してください。中性脂肪やコレステロールを抑えるには、運動療法や食物せんいの摂取を増やしたりしますが、腎臓病治療との関連があるので、主治医に相談してください。

アルコール飲料は飲んでもよいのでしょうか?

腎臓病の食事療法では、アルコールは摂取してはいけないものではありません。ただし肝臓病がある場合など、禁酒が必要なこともあるので、主治医に相談してください。またアルコールには食欲を刺激する作用もあるので、おつまみ(とくに蛋白質や塩分)のとり過ぎに注意してください。

腎臓病によい健康食品を教えてください。

とくにありません。というより、健康食品のなかには治療上好ましくないもの(カリウムが多い野菜飲料など)もありますから、必ず医師や管理栄養士に相談し、そのアドバイスを守ってください。

腎臓病食事療法のお助けサービス「宅配食」

「食事療法の勉強をしたけど今一つよくわからない」「料理する時間がない」という方もいらっしゃることでしょう。そんなとき、蛋白質や塩分を抑えた宅配サービスを利用してみる手もあります。レンジで温めるだけで食べられ、とても便利です。食事療法の強い味方となってくれることでしょう。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ28『腎臓病の食事療法』(2009年7月発行)をもとに作成しています。