ピロリ菌は胃・十二指腸以外にも悪影響を及ぼす

あなたの胃や十二指腸にも住みついているかもしれないピロリ菌。約40年前に発見され、しばらくは胃や十二指腸の病気との関連が研究されてきました。しかしその後の研究で、ピロリ菌は胃や十二指腸などの消化管だけでなく、全身に影響を及ぼすことがわかってきました。以前から「難病」とされている消化管以外の病気が、ピロリ菌の除菌じょきん(ピロリ菌の退治)によって治ることも少なくありません。

このような研究の進歩の結果、今ではピロリ菌に感染しているのであれば、それを「ピロリ菌感染症」と診断し、病気の症状があるかないかにかかわらず除菌すべき、と考えるようになりました。

ピロリ菌と関係のある病気

胃炎、萎縮いしゅく性胃炎 胃炎とは、胃壁の表面の粘膜の炎症のことです。ピロリ菌がいると程度の差こそあれ、胃炎になります。食欲低下や胃もたれがすることもありますが、ほとんどの人は無症状です。萎縮性胃炎は、胃炎が長年続き胃壁の粘膜が変化した状態で、胃がんが発生しやすくなると考えられています。除菌によって、少しずつ改善する場合があります。

胃・十二指腸潰瘍かいよう 胃は食べ物の消化や殺菌のために、強い酸性の消化液「胃酸」を分泌しています。その胃酸から自分自身を守るため、胃壁はいつも粘液で覆われています。ところが胃炎などで粘液が不足すると胃壁を守りきれなくなり、胃潰瘍ができてしまいます。また、胃酸の影響が十二指腸に及ぶことなどから、十二指腸潰瘍になることもあります。症状はみぞおちの辺りの痛み(とくに空腹時)や食欲不振などです。

胃・十二指腸潰瘍を再発する人の割合を示す棒グラフ。何も治療しない場合は72%、胃酸分泌抑制薬で治療した場合は25%、ピロリ菌を除菌した場合は2%に再発率が下がることを示した図

胃や十二指腸の潰瘍は容易に再発する病気ですが、ピロリ菌を除菌すると、再発を大幅に抑えられます。

酸を減らす薬(胃酸分泌抑制薬)で治療できますが再発しやすく、薬を長期間のみ続けなければならないとされていましたが、患者さんの大半がピロリ菌に感染していることがわかり、除菌により8割以上の人が完治し、再発もしなくなります。

なお、近年、心臓発作や脳卒中の予防などのためにNSAIDエヌセイドという薬(アスピリンなど)が長期間処方され、その副作用で潰瘍ができる人が増えていますが、ピロリ菌に感染している場合、事前に除菌をしておくと、潰瘍になりにくいことがわかっています。

胃がん ピロリ菌の持続感染状態は、胃がんの発生を増やすことがわかってきました。除菌によって胃がんの発生率や、早期胃がん治療後の再発が減ることが統計的に証明されています。

ピロリ菌の有無と胃がん発生の関係を示す図。8年間の経過観察で、ピロリ菌陽性の人1246例中36例に胃がんが発生した一方、陰性の人280例には発生しなかったことを示した図

その他の消化管の病気 胃のポリープや胃MALTリンパ腫(胃壁の粘膜下にできる悪性度の低い腫瘍しゅよう)なども除菌によって改善します。

消化管以外に起きる病気 詳しいメカニズムはまだ不明ですが、血小板減少性紫斑しはん病という難病がピロリ菌除菌で完治したり、病状がよくなることがあります。また、慢性じんま疹、鉄欠乏性貧血も除菌で改善することがあります。

ピロリ菌感染率と感染経路

国内では50歳以上の人の4割前後が感染していると推計されています。感染経路についてはすべてが明らかになったわけではありませんが、上下水道などの衛生環境が悪いと感染率が高くなることがわかっています。

50歳代と20歳代のピロリ菌感染率の年次推移(1974年〜2014年)を示す折れ線グラフ。50歳代は1974年の約95%から2014年には約43%に、20歳代は約53%から約8%に低下していることを示した図
50歳と20歳代におけるピロリ感染率の年次推移(1974年〜2014年) 厚生労働省文書「ヘリコバクターピロリ除菌の保険適用による胃がん減少効果の検証について」 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000167150.pdf より引用

日本では高度経済成長期を機に衛生環境が向上し、若い世代ほど感染率が低くなっています。

なお、免疫システムが完成していない乳幼児のときに、ピロリ菌の持続感染が成立すると考えられています。ピロリ菌に感染している成人に、たとえご自身に病気の症状はなくても除菌がすすめられる理由の一つは、このようなケースでの感染(家族内感染)を防ぐためです。

除菌治療を受けたほうがよい人

ピロリ菌がいる状態(ピロリ菌感染症)は、基本的にからだにとって不都合な状態ですから、みなさん除菌したほうがよいのです。なかでも、萎縮性胃炎、再発を繰り返す慢性の胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、早期胃がんを内視鏡で治療した後、原因不明の血小板減少性紫斑病は、除菌治療に明らかなメリット(病気の治癒や改善・再発防止効果)があり、保険もききます。また、ポリープ、慢性じんま疹、鉄欠乏性貧血なども、除菌を考慮する価値があります。

反対に、注意が必要な人もいます。除菌には短期間とはいえ通常の使用量の2倍の抗生物質を服用するので、副作用が現れやすいからです。高齢者、腎臓や肝臓の病気がある人、薬のアレルギーがある人などでは、その方が現在受けている治療をそのまま継続することと、除菌治療を受けることのメリット・デメリットを比較して慎重に判断します。

ピロリ菌を見つける検査

ピロリ菌感染の有無を調べるには、以下の六つの検査法があります。最初の三つは内視鏡を使わずに調べる検査、残りの三つは内視鏡を使う検査です。

どの検査法も少数ですが偽陰性ぎいんせい(実際は感染しているのに「感染していない」という結果が出てしまうこと)の可能性があります。その対策として、二つの検査を同時に行ったり、一つの検査の結果が陰性だった場合に別の方法でもう一度検査することがあります。なお、胃薬の影響で偽陰性になることもあるため、通常、検査の2週間前から一部の胃薬の服用を中止します。

内視鏡を使わない検査法

便中抗原検査 ピロリ菌は胃から腸を通って便の中に混ざって排泄されます。ごく少量の便をとって試薬に反応させることで、10分ほどでピロリ菌の有無を調べられます。薬を飲む必要もなく、安全で簡単な検査方法です。除菌治療が終了した時点で除菌が成功したか(ピロリ菌を退治できたか)の確認の際には、便をもっていけば判定でき、患者さんの負担も少なく便利です。

尿素呼気試験 呼気(吐く息)中の特殊な標識二酸化炭素の濃度を調べる検査です。薬(標識尿素)を飲んで20分間横になってから測定します。ピロリ菌は尿素から二酸化炭素を作るので、感染しているとその濃度が高くなります。除菌治療の効果判定によく使用される検査法です。

抗体検査 抗体とは、細菌やウイルスに感染したときにそれを排除するために体内でできる物質のことで、血液・尿検査で調べられます。ピロリ菌の抗体は菌が体内から消えたあともしばらく残るため、一時的な感染(成人後の感染)で偽陽性になることがあります。

検査の種類検体検査に必要な時間結果が出るまでの時間検査を受けるときにすること
便中抗原検査糞便約1分10分〜数日※便をごくわずか取って受診時に渡す
尿素呼気試験呼気約20分数分〜数日※薬を飲んでから、指示どおりに横になる
抗体検査血液・尿数分10分〜数日※採尿する。または採血してもらう
迅速ウレアーゼ試験生検約15分20分〜2時間内視鏡検査を受ける
鏡検法生検約15分2〜3日内視鏡検査を受ける
培養法生検約15分5〜7日内視鏡検査を受ける

※迅速診断なら10分ほどで結果がわかりますが、検体を検査会社で検査する場合は数日かかります。

内視鏡を使う検査法

口から内視鏡を入れて胃壁をわずかに切り取り(生検)、その中にピロリ菌がいるかいないかを調べます。ピロリ菌感染の有無だけでなく、潰瘍やがんを正確に検査できるのですが、切り取った部位だけ偶然ピロリ菌がいなかった場合には偽陰性になってしまいます。

迅速じんそくウレアーゼ試験 ピロリ菌が出すウレアーゼという酵素を薬に反応させて感染を調べる方法です。菌の数が少ないときに偽陰性になることがあります。

鏡検法 検体を顕微鏡で覗のぞいて菌の存在を直接確認する方法です。結果がわかるのに数日かかります。また、菌の数が少ないと偽陰性になることがあります。

培養法 検体中の細菌を培養し、ピロリ菌の有無を調べる方法です。培養に1週間ほどかかりますが、二次除菌の際には重要な検査です。

ピロリ菌を退治する除菌治療

除菌治療には、2種類の抗生物質と1種類の胃酸分泌抑制薬、合計3種類の薬を朝夕の2回、1週間続けて服用します。決められた時間に飲まなかったり、飲み忘れると除菌成功率が下がったり、耐性菌(抗生物質が効かない菌)が生まれる原因にもなるので、指示どおりに服用してください。

薬の副作用

約3割の人が、便が軟らかくなったり下痢をしたりします。症状が軽ければ整腸薬を服用しながら治療を続けますが、ひどい下痢が続く場合には治療を中断します。このほか、味覚異常や皮膚のかゆみ、発疹などが現れることもあります。

なお、アルコールにより副作用が現れやすくなります。また、タバコは除菌成功率への影響が懸念されます。治療中は断酒・禁煙してください。

効果の確認と成功率

治療終了から4週間(できれば8週間、抗体検査の場合は6か月)以上経過してから再検査を行います。この検査でも、偽陰性対策のため、二つの検査を同時に行ったり、一つの検査の結果が陰性だった場合に別の方法でもう一度検査することがあります。結果が陰性であれば、除菌成功と判定します。成功率は約9割です。

除菌に失敗したらどうするか

二次除菌を試みます。別の抗生物質を使いますが、最終的に95%前後の人で除菌できます。

ピロリ菌除菌治療の流れを示す図。内視鏡検査などで胃・十二指腸潰瘍などを診断したあとピロリ菌感染の検査を行い、陰性ならそれまでの治療を継続、陽性なら除菌治療(1週間)を行って4週間以上経過後に治療効果を判定し、陽性なら二次除菌、陰性なら除菌成功となることを示したフローチャート

除菌治療後の注意点

除菌後は胃の調子がよくなるので、食べ過ぎたり、消化吸収効率が高まることから、太りやすくなる傾向があるので注意しましょう。また、ピロリ菌によって抑えられていた胃酸の分泌が回復するため、胸やけなどの症状が治療前より悪化する場合がありますがクスリで対処します。

除菌によって胃がんのリスクは低下しますが、もともと感染していない方と同等になるわけではありません。特に除菌後3年間は要注意期間です。必ず定期的な胃カメラ検診を受けるようにしてください。

ピロリ菌Q&A

Q. ピロリ菌の検査はどこで受けられますか?

A. ほとんどの病院・クリニックで受けられます。

Q. 除菌に成功すれば、がんについてはもう安心できますか?

A. 除菌により発がん率が低下することは明らかですが、それまでの感染の影響は残りますので「除菌すれば安心」というわけにはいきません。

Q. ピロリ菌の再除菌にも失敗したら、どうするのでしょうか?

A. 除菌前に行っていた治療(胃酸分泌抑制薬の服用など)を続け、病気を管理していきます。場合によっては、三次除菌を試みることもあります。

Q. 除菌後に再感染してしまう可能性はないですか?

A. 免疫システムがまだ完全にできていない子どもの場合は再感染することがありますが、成人であれば再感染はまずしません。

Q. 自分のピロリ菌が、子どもや孫にうつらないか心配です。

A. まずご自身の除菌治療を受けてください。治療できない場合など、5歳以下のお子さんには、口移しで物を食べさせないほうが無難だと思います。小学生以上に成長したあとに感染する可能性はあまりありません。

この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ29『ピロリ菌感染症』(2010年9月発行)をもとに、専門班による改訂原稿を反映して作成しています。