はじめに
この小冊子を手にしている方は、透析が必要になりそうな人、または透析を始めて間もない人ではないかと思います。今まで続けてきた腎臓病の治療では、日々の食事療法など、大変なこともあったことでしょう。
「こんなにがんばっているのに、なぜ透析に?」と、気落ちしている方もいるかもしれませんね。しかし、透析開始は「新たな出発点」であって、病気に負けた結果ではありません。あなたの人生は、透析という力づよい味方を得て、まだまだ続きます。
幸いにも、日本の透析医療の水準は世界でトップレベル。その恵まれた環境を最大限に生かすため、前向きな気持ちで新しい生活をスタートしましょう。
腎臓の仕組みと働き
腎臓は、血液をろ過して体内の老廃物や余分な水分を、尿として排泄する臓器です。腎臓の働きがきわめて悪くなった状態(腎不全)では、からだに老廃物や水分が溜まって、尿毒症や高血圧、むくみ、心不全などの症状が現れ、ときに命に関わる危険も生じます。それを防ぐ方法が、透析です。
治療の選択肢は、血液透析、腹膜透析、腎臓移植
透析には、「血液透析」と「腹膜透析」という二つの方法があります。腹膜透析とは、内臓を覆っている腹膜を利用して血液を浄化する方法です。血液透析よりも通院回数が少なくて済むなどの利点がある一方、患者さん自身やご家族による管理が大変なこと、腹膜に負担がかかり長期間は続けにくいことなどから、それほど普及していません。国内の腎不全患者さんの多くが、血液透析で治療しています。この小冊子でも、血液透析を中心に解説します。なお、腎不全の根本的な治療法は腎臓移植ですが、国内では提供される腎臓が常に不足しているのが現状です。
透析が必要になる原因と開始のタイミング
腎臓の働きが、本来の10パーセントぐらいに低下すると、透析が必要になってきます。現在、国内で透析を受けている方は約30万人(2011年末時点の統計)、新たに透析を受け始める方は毎年3万数千人です。透析が必要になる原因のトップは糖尿病性腎症(糖尿病の合併症)、2位は慢性糸球体腎炎で、この二つで約7割を占めています。
透析開始の目安
- クレアチニンクリアランス(腎臓のろ過機能)が10mL/分未満
- BUN(尿素窒素。蛋白質からできる血液中の老廃物)が80~100mg/dL以上
- 尿毒症の症状(頭痛、めまい、吐き気、しびれ、痙攣、かゆみなど)がある
- 蛋白摂取制限などのため栄養状態が悪化している
糖尿病の患者さんや高齢者などは、これよりも少し早めに透析を始めることがあります。
初めての透析日に向けて
透析の原理
血液透析ではまず、患者さんの腕などの血管に刺した針と人工腎臓(透析器=ダイアライザー)をチューブでつなぎます。透析器の中には透析液が流れていて、血液と透析液が透析膜(非常に小さな穴があいた薄い膜)を介して接することになります。
このとき、互いに接する液体は濃度が均一になろうとする力が働き、血液中の老廃物が透析膜を通過して、透析液のほうに移ります(これを拡散といいます)。反対に、不足している成分は透析液から血液のほうへと移動します。
同時に、血液中の余分な水分を機械的に圧力をかけて透析液中に排出します(限外ろ過による除水)。
このようにしてきれいになった血液を、からだに戻します。1回の透析に4~5時間ほどかかり、これを通常、週に3回行います。
透析を受ける前の準備
透析には、短時間で大量の血液を出し入れする専用のポイント(通称「シャント」と呼ばれます)が必要です。ふつうは前腕(利き腕でないほう)の動脈と静脈をつないで作ります。
シャントを作成し、それを透析に使えるようになるまで最低2週間かかります。なるべく時間をおいて使い始めたほうがシャントが長持ちしますので、早めにシャントを作っておいたほうが安心です。
透析中の体調の変化
透析を受けている最中に、次のような症状が現れることがあります。気分が悪くなったり不安を感じたら、遠慮せずにスタッフを呼んでください。
血圧低下 からだの水分と塩分が短時間で減るため、急に血圧が下がることがあります。透析中は30分~1時間おきに血圧を測り、下がり過ぎを予防します。
不均衡症候群 透析が始まると、まず血液がきれいになり、そのあとに細胞の中に入っている老廃物が血液中に出てきて浄化されます。この時間差のため一時的に細胞の中と外の浸透圧に差が生じます。すると脳細胞にむくみが生じ、頭痛や吐き気、痙攣などが現れることがあります。透析歴の短い患者さんほど現れやすい症状ですが、個人差もあります。予防には、透析スピードを遅らせたりします。
不整脈 血液の量と成分が短時間で変化するために、脈が乱れることもよくあります。心電図をとり、不整脈の薬を用いたり、透析液の成分を調整するなどして対処します。
透析を受ける日の流れ
透析の様子をシミュレーションしてみましょう。
- 着替え:血液で汚れてもいいような、洗いやすい寝巻きなどに着替えます。
- 体重計量:前回の透析以降に増えた体重は、体内に溜まった水の重さです。計量によって、取り除く水の量(除水量)を決めます。
- 血圧測定:血圧は透析前に一度、透析中も定期的に何度か測ります。
- 消毒と針の穿刺、透析条件の設定:ベッドに横になると医療スタッフがシャントを消毒して針を刺し、除水量や透析のスピード、透析時間、透析液の温度などを機械に設定します。透析を始めたばかりのころには、この設定がこまめに変わることがあります。
- 透析:透析が始まります。透析中は、針がとれないようにしていれば、テレビを見ても本を読んでも構いません。この間、医療スタッフは、患者さんの状態を機器などで定期的にチェックしています。
- 返血、止血:透析が終わるとスタッフが、透析回路(チューブや透析器)の中の血液をからだに戻し、最後にシャントから針を抜いて止血します。
- 体重計量:体重を量り、予定どおり除水できたかどうか確認します。
知っておきたい注意点
アレルギー 頻度はまれながら透析膜などに対するアレルギーが現れる方もいます。原因と考えられる透析器材を別の種類に変更すれば解決します。
ドライウエイトの維持
体内の水分の量が、健康に支障のない最小量のときの体重を「ドライウエイト」といいます。効率良い透析を続けるための適正体重です。レントゲン写真で心臓の大きさを測るなどして、医師が判断します。
透析と透析の間は、水分がからだに溜まり体重が増加しますが、透析間隔が1日おきの場合はドライウエイトの3パーセント以内、2日おきなら5パーセント以内の増加に収まるようにしましょう。
シャントの管理
シャントの扱いが雑だと、出血や感染などが起きて、すぐに使えなくなってしまいます。長持ちするよう、以下の点に注意し、清潔を心がけてください。
- 透析を受けた日の入浴は避ける…シャワーを浴びるとしても、シャントを濡らさない。
- シャントを圧迫しない…シャントのある腕は、腕枕をしない。バッグをぶら下げない。血圧測定はシャントのないほうの腕で。
- 皮膚をかかない…かゆみや腫れなどは、自分で対処せずに医師に相談。
- シャントの状態を確認する…シャント部分に手を当てて、血液が流れていることを確認する。また、聴診器を当てて血液が流れる音を確認する。これらを1日に1回は行い、異常を感じたら医師に連絡をとる。
- シャントから出血したときには…清潔なタオルなどで抑えて血が止まるのを待つ。抑える力が強すぎないように(血管内の血流は保つように圧迫する)。
透析を補う治療
健康な腎臓の働きのすべてを透析で代行できるわけではないので、透析以外の方法でそれを補います。
貧血の治療 腎臓は赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)を分泌していますが、腎不全ではその分泌が少なくなるため、貧血になります。そのため、エリスロポエチンを注射して補います。
リンを低下させる リンは透析では十分に除去されないため、リンを吸着して腸からの吸収を抑える薬が必要になることもあります。体内にリンが溜まると、二次性副甲状腺機能亢進症になったり、血管や関節などに石灰が沈着する原因になります。
カリウムを低下させる カリウムの摂り過ぎなどで血液中のカリウムが増え過ぎた場合に、カリウムを低下させる薬も必要なことがあります。カリウムが体内に蓄積すると心臓の動きが不安定になり、突然死を招くこともあります。
骨の強度を保つ 健康な腎臓は、骨の健康に重要なビタミンDを活性化するのですが、腎不全ではこれができないために薬で補います。
透析に関する主な検査
| 検査項目 | 検査の意味 | 透析患者さんの基準値 (カッコ内は健康な人の目安) |
|---|---|---|
| BUN(尿素窒素) | 蛋白質からできる血液中の老廃物で、透析不足だと高くなり、栄養障害などで低くなる | 60~90mg/dL (10~20mg/dL) |
| クレアチニン | 筋肉から作られる物質で、透析の過不足や、残っている腎臓の機能を表す。透析不足や筋肉量が多い場合に高くなり、筋肉量が少ないと低くなる | 男性は10~15mg/dL 女性は8~13mg/dL (1.2mg/dL以下) |
| リン | リンの摂り過ぎやリン低下薬の飲み忘れ、透析不足で高くなる | 3.5~6.0mg/dL (2.5~4.5mg/dL) |
| カリウム | カリウムの摂り過ぎや透析不足で高くなる | 3.5~5.5mEq/L (3.5~5.0mEq/L) |
| ヘモグロビン | 全身に酸素を運ぶ赤血球の成分。少ないと貧血になる | 10~11g/dL。若い人は11~12g/dL (男性13.5~17.5、女性12~16g/dL) |
透析患者さんに多い病気や症状(透析の合併症)
高血圧 体内の水分・塩分を自分で排泄できないため血圧が高くなりやすくなります。動脈硬化や心不全の予防のため、血圧コントロールが重要です。
動脈硬化 近年、透析技術が向上し透析歴が長い高齢患者さんが多くなるにつれ、動脈硬化が透析の主要な合併症になってきました。足の動脈硬化で壊疽になる患者さんも増えています。禁煙、高脂肪食を控えるなどの、日々の地道な対策が予防の近道です。
二次性副甲状腺機能亢進症 血液中のリンが多すぎるために副甲状腺ホルモンの分泌が増える病気です。骨が弱くなったり、皮膚のかゆみ、動脈硬化が早まるなどの影響が現れます。薬でコントロールできないときは、副甲状腺に針を刺して薬を注入したり、手術で取り出すこともあります。
感染症やがん 透析患者さんは感染症(肝炎、結核など)やがん(とくに腎がん)になりやすい傾向があります。定期的な検査で早期に見つけましょう。
便秘 水分摂取制限などのために便秘になりがちです。腹筋体操などの運動をしたり、食物繊維の多い食品を食べたり(カリウムの多い野菜には注意〈前述〉)、薬で対処します。
かゆみや不眠 皮膚のかゆみや「足がムズムズする」という訴えがよくあります。そのためか、熟睡できない患者さんも少なくありません。透析不足や二次性副甲状腺機能亢進症が原因と考えられますが、原因がよくわからない場合もあります。原因がわかればその治療を、わからない場合には対症的に治療します。
透析とともに
最後に、効率の良い透析を長く続けるポイントをお話しします。これを押さえておくと、透析中の血圧低下が少なく、合併症も起きにくくなります。
水分や塩分の摂取制限
からだの水分が増えると、血圧が高くなったり心臓に負担がかかるほか、次の透析の際、大量に除水しなければならず、血圧が急低下しやすくなります。水が欲しくならないよう、なるべく塩分を控えましょう。なお、氷を溶かしながら舐めると、少量の水分で喉の渇きを癒せます。
食事の摂り方
健康な人とほぼ同量の蛋白質を摂取できるようになる一方で、リンやカリウムには、より気をつけないといけません。リンは卵の黄身や乳製品、レバー、小魚、魚の卵などに多く、主食ではごはんよりもパンに多く含まれています。カリウムは野菜や海藻、いも類などに多く含まれてます。カリウムは水に溶けるので、茹でこぼしながら煮ると減らせます。食材選びや料理の際に参考にしてください。
運動について
動脈硬化の予防や骨の健康維持、ストレス解消のために、適度な運動を続けてください。
透析を始めると食事制限は軽くなるのですか?
蛋白制限がかなり緩和されるので、おいしいおかずも食べられるようになります。ただし、塩分やリン、カリウムの制限は引き続き必要です。
透析中のトイレはどうするのでしょう?
スタッフに声をかけ、シャントの針と透析回路の接続を一時的に外してもらえばトイレに立てます。
旅行が趣味なのですが…
前もって旅先の透析を予約してから旅立てば大丈夫です。透析患者さん対象の海外ツアーを実施している旅行会社もあります。
糖尿病コントロールの目安を教えてください。
透析により赤血球の寿命が短くなったり、エリスロポエチンの投与によって、HbA1cが実際の血糖コントロール状態よりも低くなりやすいので、グリコアルブミンなどを参考に治療します。
この記事は冊子「わかりやすい病気のはなし」シリーズ41『腎臓病と透析治療』(2016年10月発行)をもとに作成しています。