はじめに

下痢症は、便形状が軟便あるいは水様便、かつ排便回数が増加する状態と定義されます。通常の便は、普通便では水分が75%を占めますが、80%を超えると軟便になり、さらに90%以上になると水様便になります。ここでは、下痢症の基本的な知識を解説します。

食事が便になるまで(図1)

図1 食道・胃・十二指腸・小腸・盲腸・大腸・S状結腸・直腸の位置を示した消化管のイラスト。大腸の中で内容物は矢印の方向(上行結腸→横行結腸→下行結腸→S状結腸→直腸)に運ばれ、上行結腸では流動体(約5時間)、横行結腸では粥状、下行結腸では半固形状となり、約18時間でS状結腸に達する

経口摂取された食物は、食後約5時間後に多量の水分を含んだ流動体となって、小腸から大腸に流入します。大腸に入った食事内容は大腸の運動と収縮で直腸の方向に運ばれます。大腸内では、8~14時間かけて水分の吸収が行なわれ段階的に固まっていきます。食後約18時間かけてS状結腸まで運ばれると、いったんここに留まって固形化され、食後24~72時間後に便として排泄されます。

日常生活では、まず、朝食によって結腸全体に大蠕動といわれる大腸の収縮運動が起こります。これは、胃結腸反射と呼ばれます。この収縮運動によって、結腸内の便は直腸の方向へ移動し、朝の排便を促しています。大腸の動きが早ければ、水分の吸収時間が少なくなり便の形状は下痢便になり易くなります。

下痢症の種類

下痢症は、急性下痢症と慢性下痢症に分けて考えると理解しやすいと思います。

急性下痢症

急性下痢症の多くは感染性です。

感染性腸炎(図2)

図2 腸管感染症の分類。1 散発型下痢症、2 食中毒/集団発生、3 輸入感染症、4 抗菌薬関連性下痢症、5 院内・施設内感染、6 性感染症

図2に示すように腸管感染症は、①散発型下痢症、②食中毒/集団発生、③輸入感染症、④抗菌薬関連性下痢症、⑤院内・施設感染性感染症、⑥性感染症に分類されます。

(1)散発型下痢症

散発型下痢症で多い起炎菌は、①カンピロバクター、②サルモネラ、③腸管病原性大腸菌、④腸炎ビブリオがあげられます。

①カンピロバクター腸炎

多くは鶏肉の摂取による感染症です。好発期間は、春から初夏にかけて多く、症状としては下痢、腹痛、嘔吐、発熱が現れます。患者の多くは10歳未満の小児です。治療としてはマクロライド系抗生物質が使用されます。

②サルモネラ腸炎

鶏肉、鶏卵・卵加工食品の摂取によって起こる下痢症です。夏期に多く、食物摂取から24時間以内に発症します。食中毒の原因菌として最も多く、症状としては、下痢、腹痛、発熱があります。血便は多くありません。治療としてはニューキノロン系抗生物質が使用されます。

③腸管病原性大腸菌
腸管出血性大腸菌感染症(O-157)

好発年齢は乳幼児と高齢者です。感染経路は牛あるいは患者や保菌者の糞便からの経口感染によります。摂食後2-14日(平均3-5日)で発症します。症状は、下痢(頻回の水様便または溶血性血便)、激しい腹痛、発熱、嘔吐、嘔気があります。O-157に感染した患者の6-7%では、下痢、腹痛の初期症状の後、数日から2週間後に溶血性尿毒症症候群、脳症など重症な合併症をおこすことがあるので注意が必要です。

治療は細菌感染症ですから抗菌剤を使用することが基本ですが、抗菌薬による細菌の死滅とともに毒素が血中に放出される可能性があるため慎重に観察しながら治療します。

小児では、ホスホマイシン、ノルフロキサシン、成人ではニューキノロン、ホスホマイシンを使用します。抗菌剤による治療は3-5日間を原則としています。

腸管出血性大腸菌感染症(O-157)は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)の三類感染症に該当します。三類感染症とは、罹患した場合の重症度などからみると危険性が非常に高いとはいえないが、特定の業務(飲食物を取り扱う業務等)に従事することによって他者への感染を引き起こす可能性があるとされるものが対象です。

医師は、腸管出血性大腸菌感染症(O-157)を診断したら、最寄りの保健所長に届け出る義務があります。

④腸炎ビブリオ

生の魚介類(貝柱)を摂食して感染します。摂食後12時間で発症します。夏期に多く、症状としては、下痢、腹痛、微熱があります。

治療としてはニューキノロン系の抗生物質を使用します。

(2)食中毒・集団発生

食品、添加物、器具もしくは容器包装に起因する中毒と定義されます。原因物質は細菌、化学物質、自然毒などですが、70%以上は細菌性です。すべての種類を含めた食中毒全体としての原因の頻度では、アニサキス、カンピロバクター、ノロウイルスが多く検出されます。

わが国の食中毒による死亡例はキノコなどの植物毒が多いのですが、細菌感染では腸管出血性大腸菌とサルモネラでの死亡例があります。

(3)輸入感染症(旅行者下痢症)

海外旅行者の下痢症です。飲食物などによる腸内常在細菌叢の変化や旅行に伴う精神的ストレス、肉体的疲労が原因となり易いのですが、原因不明のことも多いです。細菌では毒素原性大腸菌の検出頻度が高いとされます。毒素原性大腸菌以外にサルモネラ、カンピロバクター、赤痢菌、O1コレラ菌、チフス菌、パラチフス菌、ランブル鞭毛虫、赤痢アメーバが検出されます。

細菌性下痢症が発症する頻度の高い旅行先は、1位 東南アジア、2位 インド亜大陸、3位 中東・西アジアとなっています。

(4)抗菌薬関連性下痢症

医原性の大腸炎による下痢症です。

細菌のクロストリジオイデス・ディフィシルとメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の2菌種がこの大腸炎の原因です。

①クロストリジオイデス・ディフィシル感染症

クロストリジオイデス・ディフィシル感染症は、重篤な消化管の大手術の2~5日後、高齢者、癌、白血病、悪性リンパ腫、腎不全などの重篤な基礎疾患を有する患者に、抗生剤を投与した3週間前後または、中止2~56日後に起こる大腸炎です。下痢、腹痛、発熱、腸閉塞症状など全身症状を呈するものが多いのですが、血便はまれです。細菌検査で、クロストリジオイデス・ディフィシルが培養され、毒素が検出されます。大腸粘膜に白色の斑点状隆起である偽膜を形成することが特徴となっています(偽膜性大腸炎)。

下痢の病態は、クロストリジオイデス・ディフィシルの異常増殖によっておこります。菌の産生するトキシンAが腸粘膜に接着して大腸炎を引き起こします。中毒性腸管拡張症、穿孔、脱水、ショックを併発し重篤となることもあります。

正常腸内細菌叢のクロストリジオイデス・ディフィシルは、バクテロイデス・フラジリスによって窒素源のアミノ酸を競合され増殖できませんが、抗生物質などによって環境が変化するとクロストリジオイデス・ディフィシルの異常増殖がおこります。

クロストリジオイデス・ディフィシルは、嫌気性菌です。正常腸内細菌叢で健常成人の5%に認められます。入院患者で抗生剤や抗がん剤使用中の患者で下痢のない患者でも10%にクロストリジオイデス・ディフィシルが認められます。したがって、クロストリジオイデス・ディフィシルは、抗生物質で加療された人が、たとえ大腸炎がなくても菌を散布している可能性があります。また、患者をケアーする医療従事者の手を介して広がっている可能性もあります。院内感染を起こしやすいということです。

原因となる薬剤は、次のとおりとなっております。

原因となる薬剤抗生物質の種類割合
1)抗生物質1. セフェム40.0%
2. 合成ペニシリン29.6%
3. マクロライド20.0%
4. アミノグリコシド6.4%
2)抗真菌剤
3)抗結核剤
4)抗癌剤
5)薬物使用歴なし

抗生物質は経口剤の内服でも点滴注射でも、抗菌薬関連性下痢症の発生頻度に差はありません。

急性気管支炎、扁桃腺炎、膀胱炎などの治療でよく使われる抗生物質も含まれているため注意が必要です。

②メチシリン耐性黄色ブドウ球菌腸炎(MRSA腸炎)

男性に多く、年齢は20~70歳代と幅があります。胃酸分泌抑制剤を内服する患者、胃切除術を受けた患者に多く発症します。

MRSA腸炎は、重篤な侵襲ストレスを受ける患者に多く、病院内感染症として院内で蔓延する可能性があります(術前MRSA保菌者)。腸内細菌叢を変化させるような抗菌薬の投与を受けている患者に発症しやすいとされています。

MRSA腸炎の病態

院内感染によって鼻腔にMRSAの定着が起こり、経鼻胃管や唾液の飲み込みによりMRSAが胃内に侵入します。通常は胃酸によって殺菌されますが、胃切除や制酸剤の内服による低酸状態ではMRSAが殺菌されずに小腸内に移送され腸炎が発生します。

MRSA腸炎の症状としては、突発性の高熱で、下痢は1日に20数行、2000~4000gの米のとぎ汁様下痢便が現れます。

(5)院内・施設感染性感染症

病院内で患者間また医療従事者を原因とする細菌感染症で集団発生することがあります。検出される頻度の高い菌種としては、サルモネラ、腸管出血性大腸菌、赤痢菌、ロタウイルス、ノロウイルスなどがあります。

ここではウイルス性腸炎について説明します。

①ロタウイルス感染症

小児急性胃腸炎の25-30%を占めるウイルス性腸炎です。

乳幼児嘔吐下痢症の代表的な疾患です。糞口感染で発症し脱水になるほどの下痢が1週間続くこともあります。

②ノロウイルス

全年齢層に発生するウイルス性腸炎です。院内で集団発生する場合があります。人のみに感染し、小児急性胃腸炎の15-20%を占めています。生カキ、アサリの摂食で発症し、12月から2月に多くは発生します。症状として下痢の他に悪心、嘔吐、腹痛があります。

(6)性感染症

同性愛者の感染症としてAIDS、アメーバ赤痢に注意が必要です。他に感染症として検出される菌種としては、カンピロバクター、サルモネラ、赤痢菌、赤痢アメーバなどがあります。

細菌性下痢症の二次感染防止のための注意事項
  • まず、手洗いの励行が必要です。
  • 施設の消毒については
    消毒の範囲:患者の家のトイレ、洗面所(ノブ、ハンドル)を消毒します。
    消毒薬:逆性石鹸、両性界面活性剤、ビグアナイド系、アルコールなど使用し、噴霧または消毒液を浸した布でふき取ります。
  • 食器は流水と洗剤で洗浄します。
  • 患者との混浴を禁止します。
  • 生肉がふれた、まな板、包丁、食器等は熱湯で十分消毒します。
  • 患者が治癒するまでは、野菜を含め食品は全て十分加熱します。

慢性下痢症

慢性下痢症は、4週間以上持続または反復する下痢のために日常生活に様々な支障をきたした病態と定義されます。

下痢発症の病態として以下のように分類されます。

(1)浸透圧上昇による下痢症:食べた物の浸透圧(水分を引き付ける力)が高いと、腸での水分がきちんと吸収されないまま排便されるため下痢症になります。
原因としては、浸透圧性下剤、アルコール、乳糖などがあります。

(2)分泌性下痢症:腸は水分を吸収するだけでなく、腸液などの水分を分泌しています。その分泌量が多いと下痢症になります。
感染性腸炎の毒素や消化管ホルモンの産生腫瘍による下痢症です。

(3)腸蠕動運動異常による下痢症:腸管の動きが活発すぎると食べた物が短時間で腸を通過してしまい水分の吸収が不十分となって下痢症になります。
下剤のセンノシド、過敏性腸症候群などによる下痢症です。

(4)炎症性腸疾患による滲出性下痢症:腸に炎症があると、そこから血液成分や細胞内の液体などが滲出し便の水分量を増やします。
原因不明の難病の炎症性腸疾患であるクローン病、感染性腸炎の赤痢アメーバ、腸結核などによる下痢症です。

慢性下痢症の原因別で分類すると以下の様になります。

慢性下痢症の原因別分類
  1. 薬剤性下痢症
    抗がん剤、抗菌薬、PPI(制酸剤:逆流性食道炎や胃潰瘍の治療薬)、オルメサルタン(高血圧治療薬)、緩下剤など
  2. 食物起因性下痢症
    カフェイン、ソルビトール、アルコール、牛乳、脂肪酸
  3. 症候性(全身疾患性)下痢症
    甲状腺機能亢進症、慢性膵炎、吸収不良症候群
  4. 感染性下痢症
    赤痢アメーバ、腸結核など
  5. 器質性下痢症(炎症性や腫瘍性)
    クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、顕微鏡的大腸炎、大腸癌、消化管ホルモン産生腫瘍など
  6. 胆汁酸性下痢症
    回盲部切除後、病的な胆汁酸の関与
  7. 下痢型過敏性腸症候群
    過敏性腸症候群 Irritable bowel syndrome(IBS)

ここでは、有病率の高い過敏性腸症候群(IBS)について説明します。

IBSは、「慢性的に腹痛あるいは腹部不快感があり、便秘あるいは下痢などの便通異常を伴い、排便によって腹部症状が改善するもので、その症状を説明する器質的疾患あるいは生化学的異常が同定されないもの」と定義されています。症状は腹痛・腹部不快感などの腹部症状、下痢・便秘などの便通異常があります。また、この症状が反復性の経過をたどります。この症状は機能的なもので、症状の発現・増悪にはストレスが密接に関与しています。IBS患者は症状に対して強い苦痛を感じており、生活の質が著しく低下しています。IBSの患者の約1%は強度の腹痛のため救急車で病院へ搬送されています。

IBSの病態は、消化管運動異常、内臓知覚過敏、心理的異常の3つの要素が複雑に絡み合って形成されています。精神的なストレスが消化管症状となって現れ、内臓知覚過敏により強度の腹痛と消化管機能亢進によって下痢症が現れやすくなっています。

IBSの有病率は国民の10~20%と考えられ、まれな疾患ではありません。有病率は20代、30代の若い年代で高くなっており、男女ともに十数%を占めていますが、この割合は年代が上がるごとに減少していきます。

治療としては、コロネル、イリボー、芍薬甘草湯といった内服薬が用いられますが消化器内科の加療で症状が軽快しない場合は、精神神経科での加療が必要となる場合があります。

さいごに

下痢を経験したときの注意点
  1. 経験したことのないような激しい下痢症
  2. 便に血が混ざっている。
  3. 下痢以外に吐き気や嘔吐、発熱がある。
  4. 排便後にも腹痛が続く。
  5. 同じ物を食べた人も同時に下痢になった。
  6. 症状が悪化している。また改善の気配がない。
  7. 脱水症状(尿が出ない、口が異常に渇く)がある
  8. 慢性の下痢症である。
  9. 体重が減ってきている。
  10. 関節痛、発熱を伴う。

上記の様な下痢症の時には、消化器内科の医師にご相談ください。

この記事は「わかりやすい病気のはなし」Web版のために、専門班が新たに執筆した原稿をもとに作成しています。