慢性肝臓病は、肝硬変や肝臓がんの入り口です
肝臓は、昔から「沈黙の臓器」とも呼ばれる臓器です。その理由は、肝臓に病気が生じて多少の障害があっても症状が出にくく、障害が取り返しのつかないところまで来てはじめて症状が明らかになることが多いからです。このため、肝臓病の診療においていちばん大事な事は、今も昔も変わらず、ゆっくり静かに進行する肝臓の病気(慢性肝臓病)をしっかりと見つけて、治療に結びつけることです。
慢性肝臓病は後で示すように色々な種類がありますが、ある程度共通しているのは以下のようなことです。
- 治療せずに放置すると、10年以上の長い期間をかけて徐々に肝臓が傷んでいき硬くなり、肝硬変になります
- 肝硬変になってしまうと、元の元気な肝臓に戻るチャンスは非常に少なくなります
- 肝硬変からさらに病変が進むと、肝臓の機能が極端に低下し、身体の正常なはたらきができなくなる(肝不全)ため、最終的に命を失ってしまいます
- さらに、肝硬変になってしまうと、肝臓がん(肝細胞癌や胆管細胞癌)が非常に出やすくなり、肝臓がさらに危機的な状況になります
つまり、慢性肝臓病を肝硬変に進展するまでに見つけて、治療に結びつけることが、慢性肝臓病でみなさんの寿命を縮めないようにするために非常に大事なのです。
奈良宣言2023は、慢性肝臓病を早期に見つけるための今までで最も簡単な指標です
私たち肝臓内科医のもっとも大事な役割のひとつは、慢性肝臓病を見落とさず、適切な治療を行っていくことです。
この数十年の医療の進歩によって、多くの慢性肝臓病が治癒するような、もしくは病気の進行を抑えて肝硬変に進展しないような治療を提供できるようになってきました。
しかしながら、みなさんご自身が慢性肝臓病をお持ちの可能性があることに気づき、病院を受診されないかぎり、私たちがみなさんに適切な診断や治療を、手遅れになる前に提供することは困難です。
言い換えますと、今の肝臓病治療の最大の問題点は、いかに慢性肝臓病を治すかというところから、慢性肝臓病が進行してしまう前にいかに患者さんにご自身の慢性肝臓病に気付いてもらえるかという点に移りつつあります。
この問題点を解決するために、2023年6月に奈良で開催された日本肝臓学会総会において、奈良宣言2023が発表されました(図1)。
宣言の内容は非常にシンプルです。みなさんが健診を受けた際、血液検査で肝機能検査として計測するALTという数値が30以上であれば、かかりつけの医療機関に相談するようにしてください。これは、ALTが30以上を示す場合、必ず何らかの肝臓内の炎症が発生していることが明らかになっているからです。医療機関を受診後、担当の医師が肝疾患の原因を検査し、患者さんが慢性肝臓病をお持ちかどうか判断します。そのうえで専門医による診療が必要な場合は、適宜専門医に紹介していただき適切な診断や治療が受けられるようなシステムがこの宣言内に示されております。
慢性肝臓病が見つかったときの診療方針について
ここからは、奈良宣言2023の内容に沿ってかかりつけ医を受診し、慢性肝臓病が見つかった場合、その後の診療方針について簡単に説明いたします。
図2に全体的な診療の方針についてまとめてありますが、専門医の診断が必要な疾患や、治療を行わないと病気が進展する可能性がある状態を拾い上げて専門医に受診していただくような流れとなっています。
ここ数年間のまとめでは、肝硬変の原因となる慢性肝臓病のトップ3は
- ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)
- アルコール性肝障害
- 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
となります。
また、頻度が上記疾患より落ちるものの、専門医の診断や管理が必要になる可能性がある肝疾患として、
- 自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎)
- 薬剤性肝障害
が挙げられます。かかりつけ医は、ALTの高い患者さんが受診した際に、主にこれらの疾患の可能性につき診断し、必要に応じて患者さんを肝臓専門医に紹介することになります。以下はそれぞれの疾患の治療の方針について説明します。
ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)
治療薬(抗ウイルス薬)の進歩によって、C型肝炎のほぼ全例でウイルスを根絶することができるようになりました。B型肝炎は、ウイルスの特性上、身体からウイルスを根絶することはできませんが、それでも抗ウイルス薬によって肝硬変にならないように症状をほぼ完全にコントロールできるようになっています。どちらの疾患においても、抗ウイルス薬の使用や治療管理に関しては専門医のもとで行うことが必要ですので、これらの疾患の疑いがある場合は直ちに専門医に紹介受診していただくことになります。
アルコール性肝障害
一般的に、5年以上の飲酒歴があり、男性の場合エタノール換算で1日60g(日本酒換算で2合)、女性の場合40g以上摂取されている場合は、アルコール性肝障害を疑います。アルコールを毎日飲んでおられる方は、ついつい普段の飲酒量を少なめに換算してしまう傾向がありますので、気付かないうちにアルコール性肝障害を発症しているケースがあり、注意が必要です。また、いざ飲酒量を減らそうとしても、飲酒に対して依存ができあがっており、なかなか上手くいかない事が多いため、肝臓専門医が治療を管理することが望ましいです。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
脂肪肝から肝炎へと進展し、放置すると肝硬変や肝細胞癌に進展する可能性のある疾患です。全国で脂肪肝をお持ちの患者さんは約2300万人おられると推測されていますが、そのうち約10%、約200万人がNASHに進展すると考えられており、今後慢性肝臓病の中心となっていくことが予想されています。脂肪肝とNASHを正確に見分けるためには本来肝生検が必要となりますが、全員に肝生検を行うわけにはいきませんので、ある程度NASHの可能性が高い患者さんを絞り込むために、今までの研究の結果を活かして、血小板の数値が20万以下、もしくは肝線維化の指標であるFIB-4という数値が1.3を超える患者さんに関しては、脂肪肝からNASHに進展している可能性があるため、専門医のもとで精密検査をしていただくことになります。ちなみに、FIB-4は患者さんの年齢と簡単な血液検査の結果だけで比較的簡単に計算できますので、特殊な検査追加は必要ありません。
自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎)
比較的稀ですが、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎といった自己免疫性肝疾患が原因となって肝障害を起こすことがあります。かかりつけ医での検査で、抗核抗体や抗ミトコンドリア抗体といった自己抗体が陽性の場合、自己免疫性肝疾患の可能性があります。これらの疾患は、適切な治療を施されない場合には肝硬変へと進展する可能性がありますので、専門医による診断と治療の判断が必要となります。
薬剤性肝障害
普段皆さんが持病に対して服用しておられるお薬の他、市販のお薬、漢方薬、さらには健康食品やサプリメントが原因で肝障害を起こすことがあります。原則として、薬剤性肝障害は原因となる薬剤の使用を中止することで改善が見込めますが、内容によっては肝障害が重症化したり、長期間の肝障害によって肝硬変をきたす場合もありますので、肝障害の改善が難しい場合などは専門医の診断が必要になる場合があります。
この記事は「わかりやすい病気のはなし」Web版のために、専門班が新たに執筆した原稿をもとに作成しています。